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就業規則の不利益変更における手続きとは?従業員とのトラブル防止に向けて注意すべきこと

就業規則の不利益変更とは?

就業規則の不利益変更とは、企業が従業員にとって不利となる内容に就業規則を改定することを指します。就業規則の不利益変更は、従業員の権利や利益に大きな影響を与えるため、労働トラブルに発展しないように慎重に手続を進める必要があります。
以下では、不利益変更の具体例や必要性、その法的ルールについて解説します。

不利益変更の具体例

就業規則の不利益変更として、賃金や労働時間、休暇の条件などの労働条件を従業員にとって不利になるよう改定することが挙げられますが、具体例としては、以下のようなものがあります。
・ 基本給や手当の減額や廃止
・ 労働時間の延長や始終業時刻の変更
・ 休暇制度の縮小
・ 福利厚生制度の廃止
これらの変更は、従業員の生活や働き方に重大な影響を与えるため、慎重に進める必要があります。

不利益変更が必要となる主なケース(経営状況の悪化、業務効率化など)

企業が不利益変更を行う理由はさまざまですが、以下のケースが考えられます。

1. 経営状況の悪化

経営難によりコスト削減が必要な場合、賃金や手当の見直しが迫られることがあります。

2. 業務効率化

新たな業務形態への移行や生産性向上を目的として、労働時間や勤務体制を変更する場合です。

3. 競争環境の変化

業界の競争激化に対応するため、柔軟な労働条件の設定が必要になる場合があります。

労働条件の不利益変更の原則:労働契約法のルール

労働契約法では、労働条件の不利益変更に関して以下のとおり定められています。

(労働契約の内容の変更)
第8条  労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。

(就業規則による労働契約の内容の変更)
第9条  使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。

第10条 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。

まず、労働条件の不利益変更は、原則として労働者との合意が必要です(労働契約法第8条)。労働者との合意なしに、就業規則による不利益変更は原則として認められていません(労働契約法第9条)。
しかし、この原則を貫くと、従業員が多数いる企業では、その合意の有無によって不利益変更ができたり、できなかったりして画一的な処理が難しくなり不合理ですので、例外的に、労働契約法第10条により就業規則による不利益変更を認めています。
労契法第10条では、以下の要件を満たせば、労働者の合意がなくとも就業規則を変更することで、合意しない労働者も含めて就業規則による不利益変更が可能になります。

① 変更後の就業規則を労働者に「周知」させること(周知性)
② 就業規則の変更が「合理的」なものであること(合理性)

そして、②の「合理性」は、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして判断されます。
加えて、賃金や退職金等の労働者にとって重要な権利、労働条件に関して不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、そのような不利益を労働者に受忍させることを許容できるだけの「高度の必要性」がある場合に限って「合理性」が認められるとされています(大曲市農業協同組合事件、最判昭63.2.16)。賃金や退職金等の重要な権利については、「合理性」の判断もハードルが高くなるのです。

就業規則の不利益変更が引き起こすリスク

企業が、就業規則の不利益変更を行わざるを得ない場合があったとしても、従業員の権利や利益に大きな影響を与えるため、慎重に行わなければ様々な問題を引き起こすリスクがあります。

1. 従業員からの不満や反発の発生

労働条件の悪化により、従業員の不満が高まり、反発を招く可能性があります。特に、十分な説明や労使間の協議が欠けている場合、従業員との信頼関係が損なわれ、職場環境が悪化するリスクが高まります。
場合によれば、不満を抱く従業員が労働組合を結成し、企業に敵対的な組合活動を継続して、不満や不信感を抱く従業員を増加させる結果になるリスクもあります。

2. 労働トラブルや訴訟リスクの増加

不利益変更が合理的でない場合や、従業員の同意を得ずに一方的に行った場合、労働トラブルや訴訟に発展するリスクがあります。
訴訟に発展すれば、企業は多大な時間・労力と弁護士費用などのコストを費やすことになります。また、訴訟の結果、不利益変更が無効と判断された場合は、不利益変更前の労働条件に従った賃金等の清算や損害賠償請求が認められ、多額のコストを費やすことになります。さらに、敗訴したことが報道されたり、企業の不利益変更がSNSで炎上したりすると、社会的信用も低下することになります。

3. 職場のモチベーション低下と信頼関係の悪化

不利益変更は、従業員のモチベーションを低下させる原因になります。
従業員が自分の努力が報われないと感じることにより、仕事への意欲や生産性が低下し、組織全体の士気が下がる恐れがあります。また、企業と従業員の信頼関係が損なわれると、離職率が上昇し、人材確保が難しくなる場合もあります。

不利益変更を行う際の法的要件

就業規則による不利益変更を行う場合、労働契約法第10条に定められた要件(①周知性、②合理性)を満たす必要があります。これらの要件(特に②合理性)を満たすことにより、変更に伴うリスクを軽減し、労使間の信頼関係を維持することが可能になります。

① 変更後の就業規則を労働者に「周知」させること(周知性)

変更後の就業規則の「周知」とは、従業員が就業規則の内容を知ることができる状態をいいます。周知を怠ると就業規則による不利益変更が無効となります。
就業規則の周知方法としては、次のようなものがあります。
・ 社内のイントラネットや掲示板に掲示する
・ 説明会を開催する
・ 変更前・変更後の就業規則を並べて掲示する
・ 説明文書を用意して配布する

② 就業規則の変更が「合理的」なものであること(合理性)

就業規則の変更が「合理的」か否かは、以下の事情を考慮して判断されます。

⑴ 労働者の受ける不利益の程度
⑵ 労働条件の変更の必要性
⑶ 変更後の就業規則の内容の相当性
⑷ 労働組合等との交渉の状況
⑸ その他の就業規則の変更に係る事情

不利益変更が「合理的」と認められるためのポイント

就業規則の不利益変更において、特にハードルが高いのが②「合理性」の要件です。
不利益変更が②「合理的」と認められるためには、以下のポイントを押さえる必要があります。

1. 従業員の不利益が最小限に抑えられていること

②「合理的」の考慮要素として「⑴労働者の受ける不利益の程度」が挙げられています。
許容される「不利益の程度」について明確な基準はありませんが、賃金減額の場合、最大でも、月給10%以内であると言われています。その根拠は、懲戒処分としての減給処分の限度が、従業員の生活に与える影響を考慮して10%とされているからです(労基法91条)。但し、他の考慮要素(例えば⑵変更の必要性)によりますので、必ずしも10%まで許されるという趣旨ではありませんので、ご注意ください。
また、不利益変更を行う際には、従業員の不利益を可能な限り軽減する措置を講じることも重要です。たとえば、従業員の生活に与える影響に配慮して、一気に不利益を課すのではなく段階的に変更して少しずつ不利益を増やしていく配慮や、ある労働条件を不利益に変更する代わりに他の労働条件を優遇する等の代替案(例えば賃金を減額する代わりに労働時間を減少するなど)を提示するなどが挙げられます。

2. 経営状況や業務上の必要性が明確であること

②「合理的」の考慮要素として「⑵労働条件の変更の必要性」が挙げられています。
そのため、経営状況や業務上の必要性が具体的かつ明確に説明できるか否かが②「合理性」を満たすか否かのポイントになります。例えば、財務状況の悪化や市場環境の変化を示す客観的な資料(例えば、決算書など)を用意し、変更の必要性と関連付けて説明できるように準備してください。

3. 労働組合や従業員への丁寧な説明と協議を行うこと

②「合理的」の考慮要素として「⑷労働組合等との交渉の状況」が挙げられています。
変更内容やその背景について、労働組合や従業員と十分に協議し、丁寧に説明することが必要です。一方的に説明すればよいというわけではなく、労働組合等からの意見にも誠実に耳を傾けて、その意見の全部ないし一部でも受け入れが可能であれば、変更案を修正したり代替措置を提案したりして、労働組合等の意見も反映させていれば、より一層②「合理性」が認められやすくなります。
また、就業規則の不利益変更が法的に有効か否かの問題だけでなく、労働組合や従業員と十分に協議・説明を重ねることにより、変更に対する納得感が得られやすく、また労使間の信頼関係の構築にも繋がり、トラブルを未然に防ぐ効果も期待できます。

不利益変更の進め方:具体的な手順

不利益変更を適切に進めるためには、以下の手順を踏むことが重要です。

1. 変更の必要性と内容を明確にする

まず、不利益変更を行う理由や具体的な変更内容を明確にしていくことが必要となります。労働組合や従業員との協議・説明を行うに際して、これらの点があやふやですと、納得は得られず、不信感を高めることにも繋がります。
経営状況や業務上の課題を整理し、変更が必要不可欠であることを説明できるように準備します。必要に応じて、決算書等の財務資料も準備しておきましょう。

2. 労働組合や従業員との協議・説明を行う

次に、労働組合や従業員と協議を行い、変更の必要性や影響を丁寧に説明します。一方的に説明するだけではなく、労働組合等からの意見にも誠実に耳を傾けましょう。その意見の全部ないし一部でも受け入れが可能であれば、変更案を修正したり代替措置を提案したりして、労働組合等の意見も反映させましょう。
また、このような説明や協議の内容を議事録等で記録化しておきましょう。せっかく丁寧な説明をしたにもかかわらず、「そのような説明は受けていない」などと言われないように証拠化しておくことが必要です。

3. 就業規則の変更内容を周知し、同意を得る

変更後の就業規則を全従業員に周知し、同意を得る努力を行います。説明会や個別面談を通じて従業員の理解を深めることが求められます。
推奨される手順としては、まず従業員全体に向けて説明会を開催し、その後個々の従業員に個別面談を実施します。個別面談で理解を得られたら、合意書を交わしていってください。なるべく多くの従業員から合意書を得られるか否かがポイントになります。
合意が得られない場合は、再度説明や説得を重ね、場合によれば変更案を修正したり代替案の提案をしたりしましょう。なるべく、労働契約法第8条に基づく合意を獲得する努力を重ねてください。
それでもなお、合意が得られない従業員が残る場合は、労働契約法第10条による就業規則による不利益変更を実行することになります。それまでに得られた合意が9割を超えていると不利益変更が有効となる可能性が高いです。

4. 労働基準監督署への届け出

最終的に、変更した就業規則を労働基準監督署に届け出ます。要件を満たしていることを確認し、正式に運用を開始します。
これらの手順を適切に踏むことで、不利益変更を円満かつ円滑に進めることができ、従業員との信頼関係を維持することが可能です。

不利益変更におけるトラブルを防ぐための注意点

不利益変更を行う際、トラブルを未然に防ぐためにはいくつかの注意点を押さえることが重要です。

従業員との十分なコミュニケーションの重要性

従業員との信頼関係を維持するためには、十分なコミュニケーションが欠かせません。変更内容だけでなく、その必要性や背景についても詳細に説明し、従業員の理解を得る努力を行いましょう。

変更内容の合理性を裏付ける資料の準備

変更が合理的であることを裏付けるために、経営状況のデータや業務上の必要性を示す資料を準備することが重要です。従業員や労働組合に対して説得力のある説明が可能になります。

訴訟リスクを考慮した段階的な対応策

変更内容が大きな不利益を及ぼす場合は、段階的な実施を検討することで、従業員の負担を軽減し、訴訟リスクを低減することに繋がります。また、就業規則の不利益変更については綿密なスケジュールと専門的知識・経験が必要となりますので、使用者側の労働問題に強い弁護士などの専門家の意見を取り入れることが不可欠です。

就業規則の改定・見直しに関するご相談は弁護士法人ブレイスへ

就業規則の不利益変更については綿密なスケジュールと専門的知識・経験が必要となります。特に、「合理性」の考慮要素を意識して、不利益変更が有効となるスキーム作りや従業員への説明資料の作成などは労働法に精通した者でないとその作成は困難を極めます。
このようなスキーム作りや説明資料の作成は企業だけが行うには限界があります。労働問題の対応に長けた弁護士に相談することにより、就業規則の不利益変更が無効となるリスクを回避することができます。
弁護士法人ブレイスは、普段から多数の労働問題に対応してきた実績があります。また、社会保険労務士法人も併設しており、これまで多数の就業規則を作成し改定してきました。
就業規則の改定・見直しをする前に、是非ともご相談ください。労働トラブルの回避にお役に立てます。

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