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個人事業主が法人化するなら知っておくべき社会保険のポイント

個人事業主と法人の社会保険、何が違うのか

社会保険制度の基本概要

事業を運営するうえで、社会保険制度について正しく理解することは重要です。社会保険とは、健康保険や年金保険など、労働者や事業主が一定の保険料を支払い、万が一の事態に備える制度を指します。

社会保険には広義と狭義の意味があります。広義の社会保険は、「公的な社会保障制度全般」を指し、健康保険や年金保険のほか、雇用保険や労災保険、さらには介護保険なども含まれます。主に個人事業主やフリーランスが加入する国民健康保険も広義の社会保険に含まれます。一方で、狭義の社会保険は「健康保険と厚生年金保険」を指し、法人事業所など一定の条件を満たす場合に適用される制度です。

「社会保険」という言葉は狭義の意味で使われることが一般的ですが、法人化を考える際にはその点を正しく理解しておく必要があります。また、個人事業主時代と法人化後の社会保険の適用範囲の違いを明確にしておくことも重要です。

個人事業主の労働保険(雇用保険・労災保険)

個人事業主は基本的に雇用保険の適用対象にはなりませんが、労災保険については「特別加入制度」によって加入することが可能です。建設業などの危険を伴う業種では、万が一の事故に備えて労災保険に加入することで安心して業務を続けることができます。

また、個人事業主が従業員を雇用する場合は、労働保険の加入が必要になります。従業員を1人でも雇用した場合、雇用保険と労災保険の適用事業所となり、適切な手続きを行う必要があります。

個人事業主における社会保険(国民健康保険・国民年金)

個人事業主の場合、主に 国民健康保険 と 国民年金 に加入します。国民健康保険は自治体が運営しており、加入者が所得に応じた保険料を負担します。国民年金は、日本国内に住む20歳以上60歳未満のすべての人が加入する年金制度であり、将来の老齢年金を受け取るための基盤となります。

法人化後に加入義務が生じる社会保険(健康保険・厚生年金)

個人事業の場合でも従業員が常時5人以上いる場合は健康保険・厚生年金保険の適用事業所(一定の業種を除く)となりますが、法人化した場合は従業員等の規模などに関わらず、健康保険・厚生年金保険の加入が必須となります。 

法人化に伴う社会保険の加入義務

法人化で社会保険加入が義務付けられる条件

法人の社会保険の加入義務は会社を設立したことにより発生します。たとえ役員が1人だけの会社であっても、一定以上の報酬があれば、健康保険と厚生年金に加入する義務があるということです。

社会保険未加入の場合のペナルティとリスク

加入義務があるのに社会保険に加入しない場合、罰則やペナルティを科されることがあります。具体的なリスクとしては以下のようなものがあげられます。

  • 過去2年分の保険料を遡及請求される可能性がある。
  • 6か月以下の懲役または50万円以下の罰金といった罰則を受ける可能性がある。
  • 延滞金や追徴課税 が発生する場合がある。
  • 労働者からの告発やトラブルの原因になりやすい。
  • 助成金の受給要件を満たさなくなる可能性がある。
  • ハローワークに求人を出せなくなる

法人化を検討している場合、社会保険の適切な手続きを怠ることは、事業運営に深刻な支障をきたす可能性があります。ですから、専門家の助言を受けながら、早急に適切な手続きを進めることが重要です。

法人化した場合の対象者(役員・従業員)の取り扱い

法人化すると、役員や従業員は社会保険(健康保険・厚生年金)の適用対象となります。役員報酬を受け取る役員は被保険者となり、従業員も加入要件を満たす場合、被保険者として資格取得手続きが必要です。従業員が加入を拒否しても、法人としての加入手続きは義務であり、省略できません。

70歳以上の従業員(役員)についても、所定の手続きが求められます。具体的には、「資格取得届(70歳以上被用者該当届)」の提出が必要です。

また、複数の法人で報酬を受け取る場合、それぞれの法人で社会保険の加入手続きを行い、「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を提出することで、主たる事業所を選択する手続きが必要です。

社会保険への適切な加入は、老後の年金や医療保障を充実させるだけでなく、事業の信用向上にもつながります。適用対象者の確認と手続きを確実に行いましょう。

法人化後に必要な社会保険の手続きとは?

法人設立後に必要な「健康保険・厚生年金」の加入手続き

健康保険と厚生年金保険に加入するには、「健康保険・厚生年金保険 新規適用届」を、会社本店の所在地を管轄する年金事務所へ提出する必要があります。届出の際には、書類提出日からさかのぼって90日以内に交付された法人登記簿謄本の原本等の添付が必要です。

社会保険適用事業所として登録するための必要書類

適用事業所として登録するためには、以下の書類を準備し、管轄の年金事務所に提出します。

  • 健康保険・厚生年金保険新規適用届:事業所が新たに適用事業所となる際に提出
  • 被保険者資格取得届:役員や従業員が被保険者となる際に必要
  • 健康保険 被扶養者(異動)届:被保険者に被扶養者がいる場合に必要
  • 法人の登記事項証明書:法人の正式な登記情報を証明する書類
  • 保険料口座振替納付申出書:保険料を口座振替によって納付する場合に必要

※事前に金融機関での手続きが必要

これらの書類は、事前に正確に記入・準備し、不備がないよう確認しましょう。

管轄の年金事務所への提出方法と期限、並びに注意点

必要書類は、法人の所在地を管轄する年金事務所に提出します。提出方法は、直接持参または郵送が一般的です。提出期限は、法人設立日から5日以内とされています。提出が遅れると、過去に遡って保険料を請求される可能性があるため、注意が必要です。

社会保険料の計算と負担額、法人化でどう変わる?

社会保険料の算定基準となる「標準報酬月額」とは?

社会保険料は、給与の額に応じて決まる「標準報酬月額」を基準に計算されます。標準報酬月額は、基本給だけでなく、通勤手当や各種手当を含めた総支給額をもとに決定され、健康保険・厚生年金の保険料率を掛けて算出します。

標準報酬月額の決定には、定時決定と随時改定の2種類があります。定時決定は毎年1回(通常4〜6月の給与を基準に)行われ、その年の9月から翌年8月まで適用されます。一方、随時改定は昇給や降給により給与に大幅な変動(固定的賃金の変動)があった場合に適用され、3カ月間の平均額をもとに標準報酬月額が変更されます。随時改定が適用されると、改定後の給与に基づいた社会保険料を支払うことになります。

法人化による大きな変化のひとつは、社会保険料の算定方法です。個人事業主の場合、国民健康保険料や国民年金保険料は前年の所得や定額を基準に決定されますが、法人化後は役員報酬や給与に基づいて計算されます。そのため、役員報酬の設定次第で、社会保険料の負担額も変動する点に注意が必要です。

法人化後の社会保険料の負担(事業主負担・従業員負担)の仕組み

法人化すると、社会保険料の負担方法が個人事業主のときとは大きく異なります。個人事業主時代は、国民健康保険料と国民年金保険料を事業主が個人で全額負担していましたが、法人化すると、健康保険・厚生年金の保険料を事業主と従業員(役員を含む)が折半して負担する仕組みになります。

法人成りによる大きな変化として、会社は従業員(役員を含む)の社会保険料を負担する義務が生じる点が挙げられます。つまり、法人化後は個人の負担が軽減される一方で、会社の財務に新たな負担が加わることになるため、経営計画において十分に考慮する必要があります。さらに、法人の社会保険料は毎月の給与から天引きした上で、事業主負担分とあわせて会社がまとめて納付する仕組みになっています。個人事業主のように自分で直接納付するのではなく、給与計算時に社会保険料を控除し、会社が支払う形になるため、適切な給与計算と資金管理が求められます。

社会保険料の適正な計算と管理が必要な理由

適切な社会保険料の計算と管理は、従業員の生活保障と企業の信用維持に直結します。計算ミスや未納が発生すると、遡及徴収や罰則の対象となるだけでなく、労働者との信頼関係にも影響を与えます。正しい給与計算と社会保険の適用を行い、安定した事業運営を目指しましょう。

社会保険料が事業経費として計上できるメリット

法人化後の社会保険料のうち、会社負担分は法人の「経費(損金)」として計上できます。これにより、法人税の課税所得を圧縮し、税負担を軽減する効果があります。個人事業主時代は社会保険料が所得控除の対象でしたが、法人化することで会社負担分を経費計上できるため、節税メリットを活かした資金計画が可能になります。

 社会保険手続きを社労士に任せるメリットとは?

社会保険の手続きミスや漏れを防ぎ、スムーズな対応が可能

社会保険の加入・脱退手続きや、標準報酬月額の届出など、社会保険に関する事務手続きは細かいルールが多く、ミスや提出漏れが発生しやすい分野です。手続きに不備があると、追加の書類提出を求められたり、最悪の場合、遡及請求や罰則の対象となることは前述のとおりです。社会保険労務士(社労士)に依頼することで、正確かつ迅速に手続きを進めることができ、事業主の負担を軽減できます。

煩雑な書類作成や役所対応を代行してもらえる

社会保険に関する各種届出や申請には、複数の書類を作成し、年金事務所やハローワークなどの行政機関へ提出する必要があります。これらの手続きをすべて事業主が対応するのは手間がかかり、本業に支障をきたすこともあります。社労士に依頼すれば、書類作成や提出手続きを代行してもらえるため、事業主は経営に専念できます。

定期的な法改正や助成金制度に関する情報提供を受けられる

社会保険に関する法律や制度は、毎年のように改正されます。例えば、保険料率の変更などの細かいけれど重要な改定が頻繁に行われています。社労士は最新の法改正情報を把握し、適切な対応をアドバイスしてくれるため、事業主が知らないうちに不利益を被るリスクを回避できます。また、助成金の活用についても相談できるため、経営の支援につながります。

労務リスクの回避と労働環境整備のサポートが可能

適切な社会保険手続きは、従業員の生活の安定にも直結します。未加入や手続き漏れがあると、従業員からの不満が高まり、トラブルに発展する可能性があります。さらに、労働基準監督署や年金事務所の調査対象となるリスクもあります。社労士は、社会保険だけでなく、労務管理全般についてもサポートできるため、労働環境の整備を含めたトータルなリスク管理が可能になります。

社労士に依頼することで、手続きの負担を軽減するだけでなく、事業の健全な運営を支えることができます。

法人化後に注意すべき社会保険の運用ポイント

社会保険料の納付期限と適切な管理

社会保険料(健康保険・厚生年金保険)の納付期限は「翌月末日」と定められています。たとえば、4月分の社会保険料は5月末日までに納付する必要があります。納付が遅れると延滞金が発生し、未納が続くと金融機関の信用評価にも影響を及ぼす可能性があるため、計画的な資金管理が求められます。

納付方法としては、口座振替・金融機関窓口・電子納付のいずれかを選択できます。口座振替を利用すると、自動的に納付が行われるため、納付漏れのリスクを軽減できます。ただし、引き落とし日は翌月末日よりも早く設定されるため、資金残高を事前に確認しておくことが重要です。

また、法人の資金繰りを考慮し、保険料の負担を適切に管理することも重要です。例えば、役員報酬の設定次第で社会保険料の負担額が変わるため、報酬設計を慎重に行うことで資金計画の安定につながります。社会保険料は毎月の固定的な支出となるため、経理部門や専門家と連携しながら適切な運用を心がけましょう。

従業員の入退社に伴う社会保険手続きの重要性

従業員の入退社に伴う社会保険の手続きは、従業員や企業の生活に支障をきたす可能性があります。例えば従業員が病気やけがをした際、健康保険の加入手続きが適切に行われていなければ一時的であっても従業員に対し費用負担が発生したり、退職の際も手続きの不備により、会社が納付する必要のない保険料を納付することになったりという事があげられます。

従業員に損害が発生した場合、トラブルに発展する恐れもあるため、期限内に必要な手続きを行うようにしましょう。

 

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社会保険の手続きは、専門知識が必要であり、企業にとって負担になりがちです。ブレイスでは、企業の状況に応じた適切な社会保険手続きをサポートし、事業のスムーズな運営をお手伝いします。また、労働保険との連携や、助成金申請のアドバイスなど、経営者の皆様が安心して事業に専念できるよう幅広くサポートしています。

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