企業の成長ステージに応じて最適な社内体制整備を支援

上場(IPO)準備のための労務監査とは?企業が押さえるべきポイントと進め方を解説

労務監査(労務DD)とは?

上場(IPO)を目指す企業にとって、財務面の健全性やビジネスモデルの成長性と並び、重要視されるのが「労務管理体制の整備」です。上場審査において労務トラブルのリスクが懸念されると、企業の信頼性に疑問を持たれ、最悪の場合は上場延期や中止の可能性もあります。

こうしたリスクを未然に防ぐために不可欠なのが、「労務監査」です。「労務DD(労務デューデリジェンス)」と呼ばれることもあります。

この記事では、上場準備における労務監査の重要性、具体的な監査項目、進め方、そして専門家のサポート活用について解説します。

労務監査が求められる理由

証券取引所の上場審査では、「ガバナンス(企業統治)」と「コンプライアンス(法令遵守)」の観点から、労務管理体制が適正・適法かが厳しく問われます。労働基準法違反や未払い残業代、ハラスメントなどの問題があると、上場企業としての適格性が疑われ、審査を通過できない恐れがあります。

特に近年では、ESG(環境・社会・ガバナンス)の観点から「働きやすい職場環境」が投資家の関心を集めており、労務面での信頼性がより一層重視されています。

労務監査が行われるタイミング

企業規模や監査範囲により異なりますが、労務監査の期間は13か月程度必要になります。ただ、何らかの問題点が見つかった場合には、問題点の是正に時間を要するものも多く、一般的には上場の12年前から準備を始めることが推奨されます。

労務監査実施の流れ

労務監査は、以下のような流れで進められます。

ヒアリングと資料収集

経営陣や人事部門への聞き取り、就業規則・雇用契約書・勤怠データ・賃金台帳などの資料提出を受けます。

  1. ドキュメントレビュー

就業規則・雇用契約書・勤怠データ・賃金台帳などの内容や労務管理の運用内容が労働基準法などの法令に適合しているかなどの確認を行います。

  1. 現場調査・面談

実際の運用状況の確認や、従業員への聞き取りを行い、形式と実態の乖離がないかを調査します。

  1. レポート作成と是正提案

指摘事項をまとめた報告書を提出し、改善すべき項目とその対策を提案します。

  1. フォローアップ支援

必要に応じて、労務管理体制の再構築や研修、社内規程の整備まで継続支援を行う場合もあります。

IPO準備企業が注意するべき労務リスク

未払い残業代の有無

残業代の支払いが労働基準法などの基準に則って行われているか、未払いが発生していないかを重点的に確認します。労働時間の記録と実際の給与支給額を突き合わせ、不足分がないかを精査します。固定残業代制度を導入している場合は、明確な内訳の記載や超過分の精算が行われているかが特に重要です。過去の未払い残業代は上場審査で重大なリスク要因とされます。

労働時間(時間外労働)の管理

勤怠管理の記録が正確かつ客観的に残されており、労働時間・休憩・休日が法定どおりに運用されているかをチェックします。違法な長時間労働やサービス残業がないか、36協定の内容が適切かなども確認対象です。特に、管理職の労働時間管理の甘さが問題になることが多くあります。

就業規則や労働条件通知書(雇用契約書)の整備

労働基準法をはじめとする関連法令に準拠した就業規則・雇用契約書が整備されているかを確認します。記載内容が不明瞭であったり、最新の法改正に未対応であったりした場合は、労働トラブルに発展したり、労基署から是正指導を受けたりするリスクがあります。また、契約内容と実際の労働条件に齟齬がないかも重要な確認点です。

社会保険の加入漏れ

雇用形態や勤務時間に応じて、健康保険・厚生年金・雇用保険・労災保険など、必要な保険にすべて適正に加入しているかを確認します。パート・アルバイトや外国人労働者などの取り扱いが誤っていると、後日追徴や行政指導を受ける可能性があるため、加入要件の判断が適切になされているか重点的に確認します。また、社会保険の適用拡大への対応がしっかりなされているかも確認が必要です。

36協定等、各種労使協定書の締結・届出

法定労働時間を超える残業や休日労働を行わせる場合には、労使間で36協定(時間外・休日労働に関する協定)を締結し、労基署へ届け出る必要があります。監査では、協定の有無、届出状況、有効期限、上限時間の設定内容、周知の有無を確認します。また、裁量労働制や変形労働時間制を採用している場合は、それぞれの協定書の整備状況や運用状況もチェック対象です。

安全管理体制の構築

労働安全衛生法に基づく安全衛生活動が実施されているかを確認します。具体的には、安全衛生管理者や産業医の選任、衛生委員会の設置、定期健康診断の実施、リスクアセスメントの実施状況などが挙げられます。災害発生時の対応体制や報告義務の履行状況、職場の安全配慮義務に対する取り組みも重要な監査ポイントです。

有給休暇取得

年次有給休暇が法令に基づいて適切に付与・管理され、従業員が取得できる環境が整っているかを確認します。年5日の取得義務(対象者)を含め、取得状況の記録と管理方法、取得促進のための社内制度や運用方針の有無などが見られます。有給休暇の未取得が常態化している場合は、労働環境への配慮が不足していると評価される可能性があります。

労務監査は、単なる書類チェックではなく、実態を踏まえたリスク分析と改善策の提案が求められます。そのため、労働法に精通した弁護士や社会保険労務士の関与が不可欠です。

弁護士法人ブレイスおよび社会保険労務士法人ブレイスでは、弁護士および社会保険労務士の目線から、労務監査を行っております。 

上場を成功させるには、財務や法務だけでなく、「労務」の健全性も欠かせません。労務監査は、企業の信頼性を高め、長期的な成長の土台を築くための重要なプロセスです。専門家と連携し、早期に対応を進めることで、安心してIPOを迎える準備を整えましょう。

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