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主治医の診断書だけでは復職できない?
~協成事件に学ぶ休職・復職トラブル対応の実務~

私傷病休職中の社員から「復職したい」と申し出があったとき、企業としてはその可否をどのように判断すべきでしょうか?主治医の「復職可能」と記載された診断書があれば、それだけで復職を認めなければならないのでしょうか?

労務の現場では、「復職したい」という本人の意思と、「本当に職務に耐えうるか」を見極めたい企業の思いがすれ違い、トラブルに発展することも少なくありません。令和6年5月28日に東京地裁で判断が下された「協成事件」は、まさにこのような場面で、診断書だけでは復職の判断材料として不十分であると明確に示した重要な判例です。

本コラムでは、協成事件の内容を基に、中小企業が取りうる実務的な対応策を解説します。

協成事件とは?(東京地判 令和6528日)

事件の背景:精神疾患による休職と復職申出 

本件は、交通事故による受傷を契機として長期にわたり欠勤・休職していた従業員(整形外科的疾患とうつ病)が、休職期間の満了日を目前にして復職を希望し、整形外科と精神科の主治医がそれぞれ作成した「復職可能」とする診断書を会社に提出したことを契機に発生した紛争です。

会社側は復職可否の判断を行うために、従業員に対して、産業医が主治医に対し「交通事故で」という経緯を含めた診療情報の提供を求めることについての同意書の提出を求めました。しかし、従業員は「交通事故で」という文言の削除を条件として提示し、会社がこれに応じなかったため同意書の提出に至らず、そのまま休職期間が終了しました。

会社は、休職期間終了後も復職審査を継続しましたが、同意書への署名等に至らず、最終的には就業規則に基づき休職期間満了時にさかのぼって自然退職扱いとし、従業員はその有効性を争って訴訟に至りました。

主な争点:診療情報提供への同意拒否と自然退職の有効性

本件で最大の争点となったのは、復職に必要な診療情報の提供について、従業員が会社の求める様式での同意を拒否した結果、会社が復職を認めず自然退職とした対応が適法かどうかという点です。

主治医の診断書のみで復職を判断すべきか従業員には復職審査への協力義務があるか就業規則に基づく自然退職の適用が妥当か争われました。

裁判所の判断ポイント

論として、裁判所は復職審査において企業側が求める合理的な手続に協力しなかった従業員の責任を重く見た上で、就業規則に基づく自然退職の適用を有効であると判断しました。

裁判所はまず、傷病休職制度の性質から復職の要件の立証責任が労働者側にあることを確認しました。

すなわち、傷病休職制度は「雇用契約の終了を一定期間猶予し、労働者に治療・回復の機会を付与」するものであるとした上で、治療・回復に関する事情は労働者の管理領域にあることを理由に、「休職期間満了によって雇用契約は当然に終了するものの、労働者が復職を申し入れ、債務の本旨に従った労務提供が可能な程度に回復したことを立証したときに、雇用契約終了の効果が妨げられる」と判示し、復職可能性の立証責任が労働者側にあることを明確化しました。

次に、整形外科・精神科の主治医が出した「復職可」診断書の評価です。裁判所は主治医の立場について、「主治医は患者の治療を任務としており、患者の職場の実情には通じておらず、復職した場合に債務の本旨に従った労務提供が可能なのか、復職のため職場においていかなる配慮が必要なのかといった観点からの検討はしない立場」にあると明言しました。

そのうえで、「復職可能との主治医の診断書の存在をもって就業可能との立証がされたとはいえない」とし、主治医の診断書のみでは不十分であり、産業医の意見を踏まえた復職審査は相当であると判断しました。

実際、本件の産業医も面談時点で直ちに復職可とはせず、主治医からの診療情報に基づく検討を要するとしており、この情報が得られなかった事情が重視されています。

また、裁判所は、診療情報提供依頼書に「交通事故で」という文言を含めたことについて、「うつ病という精神疾患からの復職が問題となる状況下で、精神科の主治医から正確な情報を得るべく、休職の原因となった事故について情報提供することは不合理ではないと判示しました。

さらに、従業員は「交通事故で」の⽂⾔があろうがなかろうが結果は同じであったと主張しましたが、「交通事故が精神疾患の原因となる例も存在するのであって、結果は同じであったと軽々に断定することはできない」として、従業員側の主張を退けています。

さらに、休職満了後に会社が資格喪失手続きを急がず復職審査を継続したことが、自然退職の放棄に当たるかが争われました。裁判所は「満了後も復職可能と判断する場合に自然退職の効力を主張せず復職を認めること、逆に復職可能とならなければ満了日に遡って終了を主張することは、いずれも恩恵的措置として妨げられない」としました。休職期間満了後に復職審査を継続しても、自然退職の放棄や新たな雇用契約の申込みとみることはできないと結論づけました。

 

【実務に活かす】協成事件が示した3つの重要な視点 

① 従業員には復職審査への協力義務がある

裁判所は、治療・回復に関する事情が労働者の管理領域にあることを理由に、復職可能性の立証責任が労働者側にあることを明確にしました。その帰結として、従業員は、自らの復職可能性を立証するために、復職審査への協力義務があるといえます。

実務的にも、本件と同様に、診療情報提供依頼書に反発して同意書の提出に協力しない、主治医との医師面談に同意しないなどのケースが散見されますが、そのような従業員には、協成事件などを示しながら従業員には復職審査への協力義務があることを説明しましょう。

② 主治医の診断書だけでは復職の根拠として不十分である

復職の可否は、単に病状が改善したかどうかではなく、「債務の本旨に従った労務提供が可能な程度に回復しているか」が基準になります。

協成事件では、このことを前提にして、主治医は患者の治療を任務としており、職場の実情や業務内容に通じていないと指摘し、主治医の診断書のみでは復職の可否を判断する材料としては不十分であると明言しました。

休職中の従業員が復職を求めてくるとき、「主治医の診断書で復職可能と書かれているから、それ以上会社が調査する必要はない」などと反発してトラブルになるケースが散見されます。そのような従業員に対して、「復職の可否はあくまで会社が産業医の意見を聞きながら決めること」「主治医が決めることではない」などと説明する必要がありますが、協成事件はこのような説明の根拠となる裁判例といえます。

③ 休職期間満了後に復職審査を継続しても問題がない

以上のとおり、従業員側が就労可能であることを立証できていないため、休職期間満了とともに自然退職の効力が発生したことになります。

しかし、本件では、その後も会社は復職審査を継続し、引き続き診療情報提供への同意書の提出を求めるなどしたほか、面談を求めたり、社会保険料の負担を求めたりしていました。

実務的にも、従業員が診断書を提出しない、主治医から診療情報が届かない等の事情により、休職期間満了時までに復職審査が間に合わず満了後も審査が継続されることがよくあります。人事労務担当者の方から、「休職期間満了までに復職判定が間に合わない場合はどうしたらよいか」と相談を受けることもたびたびあります。

裁判所は、この点について「休職期間満了の効果が生じた後も、原告が資格喪失の手続をとることなく復職審査を継続し、復職可能と判断する場合に、あえて自然退職の効力を主張せず復職を認めること、逆に復職可能との判断に至らなければ、復職審査を打ち切り、休職期間満了日に遡って雇用契約の終了を主張することは、いずれも恩恵的措置として妨げられない」と判示しました。

裁判所の判断は実務的にも非常に有用な判断といえますもっとも、復職審査をのんびり行ってもよいということではなく、やはり原則としては休職期間満了日までに復職の判定を行うべきです。会社が復職審査を適正かつ迅速に進めても、なお判定が困難である場合に限り、協成事件の判断が当てはまります。

一方で、復職審査を漫然として進めない場合はそのような態度が自然退職の効力を放棄したと評価される可能性があります。

また、休職期間満了後も復職審査を継続する場合は、復職の決定を待つ従業員には復職判定に至らない理由を説明するとともに、「復職可能との判断に至らなければ、復職審査を打ち切り、休職期間満了日に遡って雇用契約の終了する」旨も説明して、従業員に誤解を与えないようにする運用が好ましいと言えます。

 

休職トラブルは弁護士×社労士でサポートする弁護士法人ブレイスまで

復職を希望する従業員が主治医の診断書を提出しても、診療情報提供への同意が得られなければ、会社は復職の可否を適切に判断できません。協成事件(東京地判令和6528日)は、このような状況で自然退職の有効性が認められた注目の判例です。

ただし、復職の対応には就業規則や手続の整備、従業員との対応方法など、慎重な判断が求められます。当事務所では、弁護士と社労士が連携し、制度設計からトラブル対応まで一貫してサポートいたします。

1.復職審査に関する法的アドバイスと手続の支援

主治医の診断書だけでは判断が難しい復職の可否について、就業規則や過去の判例を踏まえた適切な手続の進め方、診療情報提供の求め方や書式提供、産業医の意見の取り扱いなどを法的にアドバイスします。

復職判定に自信が持てないケースでも、当事務所が企業の復職判定が法的に正当と認められるための道筋を示します。

2.就業規則・休職規程の整備・改定サポート

休職・復職・自然退職に関する規定が曖昧な場合には、トラブルに発展しやすくなります。当事務所では、協成事件のような判例を踏まえた就業規則の見直しや、実務に沿った復職フローの設計を弁護士と社労士とで連携して行い、企業の実態に合った規程の整備をサポートします。

3.トラブル発生時の従業員対応及び代理交渉のサポート

復職拒否への不満、診療情報提供の拒否、自然退職処理への異議など、従業員とのトラブルが生じた場合には、企業側の代理人として通知書の作成や送付、弁護士名での代理交渉、さらには労働訴訟等の対応まで一貫してサポートします。

特に労働審判や労働訴訟への発展を防ぐために、初期段階から、専門的かつ経験に裏打ちされた対応が可能です。

 

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