社員が頻繁に席を外すことが業務の妨げになっている・・・。
そんな悩みを抱える中小企業の経営者や労務担当者の方は少なくありません。「トイレや休憩も労働者の自由では?」と思う一方で、業務に支障が出るレベルでの離席は、職務専念義務違反として問題視されることもあります。
本コラムでは、「離席が多い社員」への対応について、注意・指導・記録など実務に即した対応のポイントをわかりやすく解説します
どこからが「問題」なのか?社員の離席と職務専念義務
トイレ・喫煙・私用電話など、許容される行動との違い
①社員が業務中にトイレに行く
②短時間の喫煙をする
③やむを得ない使用電話をかける
こうした行動は一定程度、会社で許容されていることが多いといえます。特に、①については生理現象である以上、これを制限・禁止すると人権侵害・公序良俗違反となり、パワハラともなり得ます(他方、②③は法律上、制限・禁止が可能です)。
しかし、それが頻繁すぎる、長時間にわたる、業務への支障が明らかであるといった場合は、職務専念義務(職務に集中し、労務を誠実に提供する義務)に違反していると判断される場合があります。また、特に、②の喫煙は非喫煙者との不公平な取り扱いであり、非喫煙者から不満を持たれることがあります。
それでは、職務専念義務違反か許容される離席かをどのように区別していけばよいでしょうか。
離席頻度・時間の「客観的な把握」が第一歩
まずは、「主観的な不満」ではなく、客観的な事実の把握が出発点です。たとえば次のような方法で記録を取るとよいでしょう。
●離席の回数や時間帯の記録
●離席の平均時間と業務への影響
●他の社員と比較した頻度や支障の有無
客観的に記録することによって、漠然とした不満ではなく、実際に職場の業務遂行に支障を与えているかどうかを明確にすることができます。注意・指導をする際にも説得力が増します。
以上のとおり、客観的な事実関係を把握したうえで注意・指導を行うことになりますが、その前に確認すべきことがあります。
注意・指導の前に確認すべきこと
病気や合理的配慮が必要なケースはないか?
離席が多い背景に、身体的・精神的な疾患がある場合もあります。たとえば以下のようなケースです。
●頻尿・過敏性腸症候群などによる頻繁なトイレ離席
●精神的な不安から席に長時間とどまれない
●通院や服薬の副作用による一時的な不調
身体的・精神的な疾患の内容・程度にもよりますが、企業は障害者雇用促進法に基づく合理的な配慮が求められる場合があります。一方的な注意や指導の前に、本人からの事情聴取、主治医の診断書や意見書、産業医による健康状態の確認も検討すべきです。
業務指示の内容や環境に問題はないか?
また、業務指示が曖昧だったり、業務環境(騒音、温度、人間関係など)がストレスになっていないかの確認も必要です。離席の多さが業務内容への不安や不満の現れであるケースもあります。
過去の相談事例として、喫煙による離席が広く許容されていた職場で、それを不公平・不満に感じた非喫煙者がトイレを理由とする長時間の離席を繰り返すようになったケースがありました。当事務所は、非喫煙者の離席を厳しく注意・指導する前に、喫煙による離席を規制する必要があるとアドバイスしました。
離席の多さを改善するためのステップ
口頭注意→文書注意→指導記録の作成
事実関係を把握した上で、まずは口頭での注意から始めます。
それでも改善が見られない場合は、指導書や厳重注意書の書面を交付して注意・指導を行い、本人に自覚と反省を促します。その際には、以下の点に留意してください。
●離席の頻度・時間と、その影響を具体的・客観的に示す
●就業規則の規定に基づいて指摘する
●今後の改善を促す表現にする(叱責ではなく指導
繰り返し注意しても改善が見られない場合には、指導記録(注意・指導のメール、指導書や厳重注意書、面談議事録、始末書など)を作成・保管しておくことが重要です。
これらの記録は、後の懲戒処分や解雇などの判断の根拠資料にもなりますので、必ず作成・保管しておいてください。
就業規則や服務規律に基づく対応の重要性
注意や指導は、就業規則や社内文書で定められた服務規律に明記された内容に沿って行う必要があります。
たとえば「職場を離れる場合は上司に報告すること」や「職務に専念する義務」が明記されていれば、それを根拠に注意・指導すると説得力が増します。
就業規則が不十分な場合は、あらためて見直すことも検討しましょう。また、就業規則の周知が徹底されていない場合は、この機会に就業規則の内容を読み上げるなどして社内に周知することも重要です。
それでも改善しない場合は、いよいよ懲戒処分に踏み切らざるを得ません。
それでも改善しない場合の対応策
懲戒処分の対象になるか?
離席の多さが業務に重大な支障を与え、再三の注意や指導にも従わない場合、懲戒処分を検討する必要があります。ただし、以下の要件を満たす必要があります。
①就業規則に懲戒事由が明記されていること
懲戒処分を行うには、就業規則に「どのような行為が懲戒対象となるか」を具体的に定めておく必要があります。懲戒事由に定められていない行為を理由に処分すると、その懲戒処分が無効になります。
たとえば、「正当な理由なく職場を離れること」が懲戒事由であると明記していれば離席を理由とする懲戒処分が可能となります。
②客観的事実・証拠に基づく処分であること
懲戒処分の根拠は「感覚」や「印象」ではなく、客観的な事実・証拠に基づいていなければなりません。離席の時間、回数、業務への影響などを日々記録し、事実関係を明確にしておくことが重要です。
③段階的な指導が行われていたこと
懲戒処分の前に、まずは口頭注意、書面での指導といった段階的な対応を行い、本人に改善の機会を与えることが求められます。いきなり懲戒処分に踏み切ると、「改善の機会を奪った」として無効とされる可能性があります。
また、懲戒処分を行うにしても、いきなり懲戒解雇を選択するのではなく、戒告・けん責、減給、出勤停止等、徐々に処分の程度を重くしていくことが望まれます。
④手続が適正に行われたこと(本人への弁明機会等)
懲戒処分を行う際は、本人に対して事前に理由を説明し、反論や弁明の機会を与える必要があります。特に懲戒解雇など重い処分の場合、本人が納得できるよう十分な説明を行い、本人の言い分を丁寧に聞き取る必要があります。
他の社員への影響と対応のバランス
離席が多い問題社員に対する対応が曖昧で放置されたままですと、他の社員の士気低下や不公平感につながるおそれがあります。逆に、過剰に厳しく対応すれば、職場の雰囲気が悪化する可能性もあります。
全体のバランスを見ながら、職場の秩序維持を第一に対応を検討しましょう。
弁護士に相談すべきタイミングとは?
以下のような場面では、労働問題に精通した弁護士への相談を強くおすすめします。
●注意指導をしても改善が見られず、懲戒処分を検討している
●健康問題への対応や合理的な配慮の内容に不安がある
●他の社員から不満が出ており、早急に対応が必要である
●離席問題への注意指導がハラスメントであるとの訴えが出ている
●解雇を検討しているが法的リスクを知りたい
弁護士と相談・連携することで、法的なリスクを最小限に抑えつつ、社内秩序を維持する有効な手段・対応を進めることができます。
弁護士法人ブレイスは、中小企業の労務トラブルに特化した法律事務所です。「問題社員への対応」「解雇・懲戒処分の手続」「就業規則の整備」など、経営者や労務担当者が直面する課題に対し、実務に即した解決策を提供しています。
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