社員による不適切なSNS投稿は、企業の信用失墜や取引先との関係悪化を招くなど、重大な経営リスクにつながりかねません。特に中小企業では、SNSトラブルに対する社内体制が整っていないケースも多く、初動対応を誤ると被害が拡大するおそれがあります。
本コラムでは、問題社員によるSNS投稿への適切な対応方法と、再発を防ぐための実務的な予防策について、労務管理の観点から解説します。
SNSが企業リスクになる時代に!
中小企業が直面している課題とは?
なぜ今「社員の私的SNS投稿」が問題になるのか?
SNSの普及により、社員一人ひとりが企業の「顔」として社会とつながる時代になりました。X(旧Twitter)やInstagram、TikTokなどの投稿は瞬時に拡散し、たとえ個人の私的アカウントであっても、勤務先や業務内容が特定されれば、企業の信用に直結する事態となります。特に中小企業では、社員と顧客・取引先との距離が近く、投稿内容がそのまま「会社の姿勢」と受け取られることも少なくありません。
問題は、社員本人に悪意がないケースでも起こり得るという点です。たとえば「職場の愚痴」や「社内の出来事」を軽い気持ちで投稿しても、顧客情報や内部事情の漏えい、誤解を招く発言として炎上するリスクがあります。SNSが生活の一部になっている今、企業と従業員の境界が曖昧になっていることが、最も深刻なリスク要因といえるでしょう。
実際に起きているトラブルの具体例
① 2024年2月
宅配ピザ店で、アルバイト2名が営業終了後に不衛生行為を撮影しSNSに投稿して炎上。店舗は即日営業停止、生地廃棄と外部清掃・再教育を実施し、関与者は解雇した。
② 2024年6月(2020年に投稿)
大学病院で医学系研究科の学生が、患者氏名等が表示された電子カルテ画面をSNSに投稿し、病院が謝罪文を公表した。
③ 2025年8月
県教育委員会は、生徒とSNSで私的なやりとりをしたとして、県立学校の事務長の男性らを減給の懲戒処分にした。
SNS投稿は一度拡散すると完全に削除するのは難しく、炎上による評判への影響は長期的に残ります。近年では、炎上を理由に取引停止や社員の退職が起きる例もあります。中小企業は広報部門がない場合も多く、初動対応が遅れやすいことから、小さな投稿でも信用を失う危険があります。SNSは個人の自由という考え方は通用せず、企業は就業規則やガイドラインを整備し、社員教育を徹底することが不可欠です。
社員のSNS投稿が炎上したときにまずやるべき対応
初動48時間で押さえるべきポイント
社員のSNS投稿が炎上した際は、迅速かつ冷静な初動対応が不可欠です。発覚から数時間で情報が拡散するため、最初の48時間の対応が被害拡大を防ぐ鍵となります。
まず重要なのは、「事実関係の確認」と「情報拡散の抑制」です。投稿内容が本当に自社の社員によるものか、業務に関係するものかを確認します。社内での安易な推測や噂は禁物で、拡散に加担しないよう社内周知も必要です。もし投稿が実際に社員によるものであれば、即座に経営層・人事・法務・広報部門に報告し、対応方針を一本化する必要があります。発言内容を統一し、担当者以外が独自のコメントを発信しないよう社内周知を徹底することが重要です。
また、SNS上で場当たり的な弁明や謝罪を行うのは避けましょう。誤った情報発信は、さらなる炎上や法的リスクを招く恐れがあります。公式コメントの発表は、事実確認とリスク評価を経たうえで、慎重かつ一貫性のある内容で行う必要があります。
最初の48時間以内に一次声明を発信することが理想です。
一次声明では、
■事実関係を確認中であること
■不適切な投稿が自社関係者によるものか否か調査中であること
■関係者・顧客・取引先へのお詫び
を簡潔に記載します。
この段階では憶測を避け、確定していない情報を発表しないことが原則です。誤った情報を発信すると、かえって二次炎上を招くリスクがあります。
調査が完了した後は、再発防止策を含めた二次声明を出すことで、信頼を回復しやすくなります。たとえば、「SNSガイドラインを改定し社員研修を実施した」「社内監督体制を強化した」など、具体的な改善策を公表することで、企業としての誠実な姿勢を示すことができます。
証拠保全、ヒアリング、削除依頼、社内対応の流れ
初動対応が落ち着いたら、速やかに証拠保全を行います。投稿が削除・隠蔽されることに備えて、スクリーンショットや投稿URL、投稿日時、コメント欄の内容などを記録しておくことが重要です。SNSプラットフォーム側に削除を依頼する場合も、証拠を残したうえで進める必要があります。
次に、当該社員へのヒアリングを実施します。その際、感情的な追及ではなく、事実確認を目的とした冷静な面談を心掛けてください。「いつ・どのような経緯で投稿したのか」「意図は何だったのか」「どの範囲で共有されたのか」を明確にし、発言内容を記録しておきましょう。
その後、SNS事業者への削除依頼や、拡散防止措置を行います。企業名が特定されている場合は、検索エンジン運営者(Google など)に対する「検索結果の削除」を求めることも検討します。これらの対応には専門的な手続きが必要となるため、弁護士の関与が望ましいでしょう。
さらに、社内においては、関係部署や他の社員への情報共有と再発防止策の周知が欠かせません。炎上が起きた際、対応チームを設け、広報対応・顧客対応・法務対応を分担して進めることで、混乱を防げます。また、同種トラブルの再発を防ぐため、就業規則やSNS利用ガイドラインの改訂、従業員研修の実施も早期に着手すべきです。
社内ルールでトラブルを防ぐ!SNS利用ルールと教育の整え方
SNSガイドラインはなぜ必要か?
SNSガイドラインが必要とされるのは、企業としての判断基準や対応体制を統一し、トラブルを未然に防ぐためです。SNS投稿をめぐる問題は、投稿内容そのものよりも、対応のばらつきや社員間の認識の差によって拡大する傾向があります。
ガイドラインを設けることで、どのような投稿が問題となるのか、発覚時に誰がどのように対応すべきかを明確にでき、迅速で一貫した対応が可能になります。また、リスクを予見し管理している姿勢を社内外に示すことができ、企業の信頼維持につながります。
就業規則に盛り込むべき基本ルール
SNSガイドラインは単独で運用するのではなく、就業規則と連動させることが重要です。就業規則には、「企業の信用を損なう言動を禁止する」「業務上知り得た情報の漏えいを禁止する」「会社名・顧客名・取引先名などを不用意にSNSで発信しない」といった基本ルールを明記します。
さらに、違反時の懲戒処分の可能性についても明確にしておくことで、社員にルール遵守の意識を持たせることができます。特に、SNS上での発言が名誉毀損や信用毀損に発展した場合、企業にも使用者責任が及ぶおそれがあるため、「会社を代表する自覚を持つこと」を明文化しておくことが望ましいでしょう。
また、就業規則改定時には、労働基準監督署への届出を行い、社員への周知を徹底することが求められます。
誓約書と研修で「知らなかった」を防ぐ
ルールを整備しただけでは、トラブル防止には不十分です。実際の運用段階では、社員一人ひとりに内容を理解させ、意識を定着させることが欠かせません。そこで有効なのが、誓約書の提出と定期的な研修の実施です。
誓約書では、「業務上知り得た情報をSNSで発信しない」「会社や取引先を誹謗中傷しない」といった遵守事項を明記し、署名させることで、社員に責任の自覚を持たせることができます。
また、SNSの使い方は時代とともに変化するため、年1回程度の社内研修を通じて最新の事例やトレンドを共有することも有効です。特に、若年層の社員やアルバイトには、軽率な投稿が企業の信用を失う可能性を具体的に示すことで、実感を持って理解してもらえます。
プライベートでのSNS投稿でも懲戒処分ができるのはどんなとき?
「勤務時間外の投稿」でも会社が処分できるケースとは?
SNSへの投稿が勤務時間外や私生活上の行為であったとしても、その内容によっては企業の社会的信用を損なう行為とみなされ、懲戒処分の対象となることがあります。
たとえば、勤務先名や制服が特定できる状態で、顧客や同僚を中傷する投稿を行った場合、企業の評判を傷つけ、職場秩序を乱す行為として懲戒事由に該当し得ます。また、業務上知り得た内部情報を投稿したり、取引先や顧客の情報を不用意に開示したりした場合も、秘密保持義務違反や信用毀損行為として処分が認められる可能性があります。
つまり、勤務時間外の行為であっても「会社の業務や信用に影響を及ぼす投稿」であれば、私生活上の自由が制限される範囲内で懲戒処分が有効とされます。
懲戒処分が有効とされるための3つの条件
もっとも、企業がSNS投稿を理由に懲戒処分を行う場合、どのような投稿でも処分が認められるわけではありません。裁判例や実務上、懲戒の有効性が認められるためには次の3要件を満たす必要があります。
① 就業規則に明確な懲戒事由が定められていること
「会社の信用を傷つける行為」「職場の秩序を乱す行為」など、SNS投稿が該当し得る条項が明記されていることが前提です。
② 投稿内容と会社業務との関連性・影響の程度が重大であること
単なる私見や意見表明ではなく、実際に企業の信用や業務運営に悪影響を及ぼしたと認められる必要があります。
③ 処分の相当性があること
行為の悪質性、反省の有無、被害の程度などを踏まえて、解雇など重い処分が社会通念上妥当といえるかが判断されます。
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この3点が欠ける場合、たとえ不適切な投稿であっても「懲戒権の濫用」として無効となるおそれがあります。
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参考となる裁判例(関西電力事件:最一小判昭58.9.8)
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SNS投稿そのものの裁判例ではありませんが、職場外の言論でも企業秩序との関連があれば懲戒が問題になり得ることを示す裁判例を紹介します。
従業員が会社を誹謗中傷する内容のビラを就業時間外に会社社宅に配布したこと理由に譴責(けんせき)処分とされたことにつき処分の有効性が争われました。
裁判所は、「企業秩序は、通常労働者の職場内又は職務遂行に関係のある行為を規制することにより維持しうるのであるが、職場外でされた職務遂行に関係のない労働者の行為であっても、企業の円滑な運営に支障を来すおそれがあるなど企業秩序に関係を有するものもあるのであるから、使用者は、企業秩序の維持確保のために、そのような行為をも規制の対象とし、これを理由として労働者に懲戒を課すことも許される」「本件についてみるに、右ビラの内容が大部分事実に基づかず、又は事実を誇張歪曲してY社を非難攻撃し、全体としてこれを中傷誹謗するものであり、右ビラの配布により労働者の会社に対する不信感を醸成し企業秩序を乱し、又はそのおそれのあったものとした原審の認定判断は・・・違法があるものとすることはできない。」としました。
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実際の投稿をどう判断する?
懲戒できるかどうかのチェックポイント -
SNS投稿を理由に懲戒処分を検討する際は、次の点を冷静に確認することが重要です。
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■ 投稿内容が会社や取引先、顧客を特定できるものか
■ 投稿が企業の信用を実際に毀損した、またはそのおそれがあるか
■ 投稿者が勤務中または会社の立場を利用して発信していないか
■ 注意・指導など軽い措置で改善が見込めないか
■ 処分の内容が行為の悪質性に見合っているか
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これらの点を慎重に検討せずに懲戒や解雇を行うと、逆に社員から「懲戒権の濫用」として訴えられるリスクがあります。企業としては、感情的な処分に走らず、法的観点と社会的妥当性を踏まえて慎重に対応することが求められます。
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顧問弁護士を味方につける!相談のタイミングと活用方法
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SNSトラブルで弁護士ができること
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SNSトラブルは初動を誤ると、さらなる炎上・拡散や信用低下につながるおそれがあります。特に削除依頼や法的責任の判断、関係者への対応には高度な法的知識と慎重な判断が必要です。
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弁護士は、名誉毀損や信用毀損に当たるかの判断、発信者情報開示請求や削除手続きなど、企業では対応が難しい手続を適切に処理します。また、炎上後の謝罪文や広報発表の内容・時期についても助言を行い、法的リスクを最小限に抑えつつ誠実な対応を実現します。
顧問契約があるとスムーズになるポイント
SNSトラブルは、ある日突然発生します。その際、顧問弁護士がすでに企業の内部事情や体制を理解しているかどうかが、対応のスピードと的確さを左右します。
顧問契約があれば、新たに弁護士を探す手間なく即座に相談・対応が可能です。
顧問弁護士は社内の事情を把握しているため、炎上時の文書作成や広報対応も迅速に行えます。さらに定期的なリーガルチェックにより、SNSトラブルに限らず、労務問題や情報漏えいなど周辺のリスクにも備えられます。
トラブル防止にも活かせるリーガルサポート
顧問弁護士がいると、トラブルの対応だけでなく、予防法務にも効果的です。
SNSガイドラインや就業規則への明文化、誓約書の作成、社員研修などを通じて、炎上を未然に防ぐ体制を整備します。また、懲戒・解雇の可否や表現の自由との線引きも明確になります。企業は「起きてからの対応」ではなく「起きない仕組みづくり」へと転換できます。
SNSトラブルはスピードが命であり、法的判断を誤れば企業の信頼回復に長期間を要します。顧問弁護士をパートナーとして活用することで、緊急時だけでなく、平時の予防体制まで一貫して整えることが可能です。
弁護士法人ブレイスでは、労務・人事・企業広報の各分野に精通した弁護士と社労士が連携し、中小企業のSNSリスク対策を総合的にサポートしています。
トラブルが起きてからではなく、「起きる前」に相談することこそ、現代の企業防衛の第一歩です。




