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技能実習生の妊娠対応で企業が踏み外しやすい落とし穴
―「善意の帰国」のつもりが「違法」にならないための実務フロー

なぜ技能実習生の「妊娠対応」はトラブルになりやすいのか

中小企業でも外国人技能実習生の受入れは一般化していますが、技能実習生の妊娠・出産は、技能実習制度や在留資格、現場の運営が交錯し、対応が難しいことが多いです。

現場で「体調や帰国後の支援を考えて善意で帰国を勧めた」としても、状況次第では雇止めや退職の強要、妊娠を理由とする不利益取扱いと評価されるリスクがあります。

 そこで、本コラムでは、関係する法律・制度の大枠を整理し、企業が踏むべき正しい実務フローを理解することを目的とします。

 

 実際の労働局の指導事例 ~何が問題視されたのか~

 (1)妊娠申告後の雇止めが均等法違反とされた事例

本事例は、女性外国人労働者が妊娠したことを派遣元企業に報告したところ、派遣先企業から、「今月末をもって契約を解除する」と通告された事案です。

労働局は、男女雇用機会均等法第9条第3項(妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止)について説明し、この事案は妊娠中の雇い止めであり、業務上の必要性など特段の事情があることを事業主が証明しない限り不利益取扱いとして法違反であること、外国人労働者が夜勤を希望しないことや数日間の欠勤があったことについて妊娠が理由であった場合、それを理由とした不利益取扱いは許されないことを指摘しました。

(2)執拗な発言が退職強要と評価された事例

 本事例は、妊娠した女性外国人労働者が、事業主に対し、「産前産後休業・育児休業を取得して、子どもを育てたい」と申し出たが、事業主は、妊婦に与えられる仕事がないことを理由に「中絶しないならば、解雇するしかない」と言い渡したという事案です。

 労働局が事業主から事情聴取した結果、事業主は「中絶しないと解雇する」とは言っていないと否定しました。一方で、妊娠中は法令上高所作業に従事できず建設現場で就労させられないこと、事務職へ転換するには日本語力が十分でなく任せられる業務がないことを理由に、社長が「仕事ができないなら辞めるしかないのでは」との発言を複数回行ったのは事実だと説明しました。女性外国人労働者が反論しなかったため退職を受け入れたと解釈し、自己都合の離職票を作成したとのことです。

これに対し労働局は、執拗な発言は退職の強要に当たり、配置転換や無給休業など雇用継続策を検討せず退職させた点は、妊娠等を理由とする不利益取扱いを禁じる男女雇用機会均等法9条3項違反と指摘しました。その上で、円満解決に向け解決金額を調整し、双方合意の解決金が支払われました。 

(3)妊娠した外国人労働者に対し、本人の意向を確認せず、退職届に署名させた事例

 本事例は、「妊娠を理由に勤務先から雇い止めを言い渡され、また、特定技能の在留許可の更新を拒否された」との相談を受けた事案です。

労働局が当該労働者から直接事情を聴取したところ、本人は退職せざるを得ないと思い込んでいたものの、勤務を継続できるなら継続し、産前産後休業・育児休業を取得して復職したい意向であることが判明しました。本人は退職届の返却と在留資格更新手続も希望したため、その意向を踏まえて紛争解決の援助を開始しました。

事業主への事情聴取では、当初は本人が退職を望んだと理解して準備していたが、本人の希望であれば法令遵守で対応すると回答し、労働者の要望を全て受け入れました。労働局は、労働者が利用できる休業や手当を十分理解していなかった点を事業主に説明し、今後は意向を決めつけず必要情報を提供し、本人の意思確認を徹底するよう助言して終了しました。

 

 

【大前提】技能実習生は「労働者」であり、妊娠を理由に排除できない

 (1)技能実習生=労働者

 技能実習生には労働基準法・男女雇用機会均等法・育児介護休業法が当然に適用されます。

したがって、「研修だから労働者ではない」という説明は現行制度では誤りとなります。 

(2)妊娠・出産を理由とする解雇・不利益取扱いの禁止

妊娠・出産等を理由とする解雇・雇止めや不利益取扱いは法律で明確に禁止されています。倒産等の例外を除き、本人の意思に反して途中帰国させることはできません。また、送出機関が「妊娠したら帰国する」と約束させることも認められません。 

 

妊娠が分かった直後に企業が取るべき「初動対応」

 (1)まず行うべき支援と配慮

□技能実習生向けリーフレットを用い、「実習をやめる必要はない」と伝える

□利用できる支援制度を丁寧に説明

□定期健診、市区町村手続(母子手帳交付等)の支援

□妊娠中・産後の安全配慮(重量物作業の禁止、通院時間確保 等) 

(2)「帰国の話」を急いではいけない理由

 説明不足=退職の強要、と判断された労働局事例が多数存在することからも、不安定な時期に結論を迫ると、後に「自由意思でない」と評価されるおそれがあります。 

 

【重要】技能実習生が妊娠した場合のフロー(全体像)

出典:出入国在留管理庁「技能実習生が妊娠等した場合の基本フロー」
https://www.moj.go.jp/isa/content/001393587.pdf

(1)最初に行うべき共通ステップ

□技能実習生に認められる権利を改めて説明

□技能実習生・実習実施者・監理団体の三者で協議

□「妊娠等に関連した技能実習期間満了前の帰国についての申告書」を活用

 

出典:OTIT外国人技能実習機構
「妊娠等に関連した技能実習期間満了前の帰国についての申告書」
様式第一(第一条関係)

 

ケース別の具体的手続

(1)日本で出産しつつ「実習継続」または「中断→再開」を目指す場合

 技能実習生が、産前産後休業を取得する場合は、技能実習の一時中断となるため、外国人技能実習機構地方事務所・支所の認定課へ、技能実習実施困難時届出書を提出する必要があります。

また、在留期間が満了する場合は、地方入管へ在留期間更新許可の申請をする必要があります。

なお、「休業=更新不可」ではありません。

その後、技能実習の再開時に、

  • 同一技能実習実施者の場合は、技能実習計画変更認定申請書を提出し、
  • 技能実習実施者を変更する場合は、新規認定が必要となります。 

(2)妊娠により仕事内容の変更が必要な場合

 妊娠で、医師の指示により、業務内容につき変更が生じた場合、内容によって技能実習計画軽微変更届出、または技能実習計画変更認定申請書の提出が必要となります。

「変更が面倒だから帰国させる」という短絡的な運用は、現行制度の趣旨に反しますので、提出を怠らないようにしましょう。

(3)一時帰国して母国で出産し、その後再開する場合

 外国人技能実習機構地方事務所・支所の認定課へ技能実習実施困難時届出書を提出した上で、地方入管より再入国許可を取得する必要があります。

※1年未満:原則不要(みなし再入国)
 1年以上:再入国許可が必要

なお、帰国中に在留期間が満了する場合は、在留資格認定証明書(COE)の交付申請が必要となりますのでご注意ください。 

(4)本人が「実習終了・帰国」を希望する場合

 本人の自由意思が大前提となります。本人の自由意志に基づくものではないと判断された場合、退職の強要となり、上述のように労働トラブルに発展するおそれがあるので、本人との面談等で慎重に意思確認を行ってください。なお、本人が希望する場合は出産後に技能実習に復帰することも可能です。

十分な話し合いの末、本人の意思確認ができた場合は、外国人技能実習以降地方事務所・支所の認定課に、技能実習実施困難時届出書を提出してください。

 技能実習を終了して帰国することになった場合、企業(実習実施者)や監理団体は、帰国までの段取り(関係機関との連絡、必要書類・手続、移動の手配等)をして、実習生が帰国できるように措置を講じる必要があります。その際の「費用等」について、実習生に出させたり、給与から控除したり、送出機関経由で請求したりしてはいけません。

特に帰国旅費は、監理団体または技能実習機関(実習実施者)が全額負担すべきことが明記されています。(出入国在留管理庁・厚生労働省 編『技能実習制度 運用要領』(令和7年12月版))

 

「雇止め・退職の強要と疑われない」ための社内実務チェック

(1)面談の進め方

□選択肢をすべて提示(継続/中断/一時帰国/終了)

□即決させない

□通訳同席・面談記録の作成

(2)書類・手続の整理

□技能実習実施困難時届の提出

□技能実習計画変更認定申請書・技能実習計画軽微変更届出書の提出

□在留資格関連手続

□申告書・説明資料の交付記録

□「妊娠等に関連した技能実習期間満了前の帰国についての申告書」の活用

 

妊娠対応は「制度への理解」と「丁寧な対話」が最大のリスク対策

 妊娠は「想定外のトラブル」ではなく、制度上あらかじめ織り込まれている出来事です。

それにもかかわらず、現場の判断だけで帰国勧奨や退職を促せば、退職の強要や不利益取扱いと評価され、紛争に発展しかねません。

だからこそ、兆候を把握した段階で早期に専門家へ相談し、監理団体・外国人技能実習機構、必要に応じて出入国在留管理局とも連携して、在留資格や就労継続の見通し、配置転換・休業・休暇等の選択肢を整理することが企業防衛につながります。実習生の人生を尊重しつつ、企業の法的リスクも確実にコントロールする――そのための実務対応を、平時から整えておくことが重要です。

外国人雇用や技能実習に関するトラブルや在留資格の取り扱いについてご不安があれば、弁護士法人ブレイスにご相談ください。当事務所は、労働問題と入管法の双方に精通した弁護士が、在留カードの確認方法や職務設計、就業規則・雇用契約書の見直し、技能実習・特定技能の受入れスキーム構築まで一体的にサポートします。

外国人女性労働者から妊娠・出産の相談を受けた場合や労働局の調査が予定されているケースについても、事実関係の整理から、労働局や労働者側との折衝・再発防止策の立案まで、状況に応じてオーダーメイドで対応いたします。

外国人材を安心して活用したい中小企業・監理団体・登録支援機関の皆さまは、ぜひ一度、弁護士法人ブレイスへお気軽にご相談ください。

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