外国人雇用が当たり前になりつつある一方で、中小企業の現場では「通常の注意指導のつもりだった」「評価理由を伝えたつもりだった」のに、外国人従業員から「差別では?」「ハラスメントだ」と受け止められ、職場の信頼関係が崩れるケースが少なくありません。
相手の「感じ方」だけで片付けることや、会社が一方的に否定することは適切な労務管理とは言えません。「基準の透明性×運用の一貫性×説明可能な記録×言語への配慮」で、誤解や対立が生まれにくい仕組みを整えることが極めて重要です。
このコラムでは、「外国人に注意したら差別と言われた」「外国人に評価を伝えたら差別と言われた」などでお困りの中小企業経営者や労務担当者が、外国人雇用で「ハラスメント」「差別」と言われないために、注意指導・人事評価の実務ポイントを説明します。
外国人雇用でトラブルが起きやすい理由
(注意指導・人事評価が「差別」に見える瞬間)
言語・文化のズレと説明不足
外国人従業員への注意指導や評価がトラブルになる背景には、言語の壁だけでなく「前提」(価値観、習慣、宗教などの文化)の違いがあります。例えば、日本人同士なら暗黙に共有できる「期待される水準」や「報連相のタイミング」が、外国人従業員には共有されていないことがあります。
その状態で丁寧な説明もなく「なんで分からないの?」「普通こうするよね」と強い言い方をすると、本人には「能力ではなく国籍で見下された」「最初から不利に扱われている」と映りやすいのです。特に人事評価は給料にも直結し得るため、その説明不足は不信感を増幅します。
冗談、場の空気、周囲の反応
冗談のつもりの発言でも、国籍・言語・名前に触れると差別的に受け取られやすくなります。さらに周囲が笑って流したり、上司が「冗談だよ」で済ませたりすると、本人は「会社全体が自分を軽視している」と感じます。
これは単発の発言よりも、職場の空気や職場の反応により「排除・孤立」と感じさせて問題化しやすい典型です。
評価基準が曖昧、記録がない、運用が属人化
中小企業ほど、評価基準や指導の手順が担当者の経験に依存しがちです。
基準が曖昧だと「同じミスなのに人によって扱いが違う」「外国人だけ厳しい」と疑われやすく、記録がなければ「言った・言わない」「説明された・されていない」の水掛け論になりやすい。
客観的かつ分かりやすい評価基準を設けて、かつ外国人労働者にも母国語で説明する等の制度を整えることが、最も費用対効果の高い予防策です。
「差別・ハラスメント」と感じられやすい言動
(国籍いじり・排除・不公平)
国籍・出身地の決めつけ(「○○人はみんな…」)
「○○人はルーズ」「○○国の人は雑」などの一般化や決めつけは、能力評価を国籍だけでしているように聞こえます。
注意指導や評価の中にこのような言動が含まれると、労基法3条の「国籍を理由とする差別」を疑われてしまいます。指導はあくまで「客観的な業務上の事実や行動」に基づき、個人の行動に限定して指導・評価しましょう。
差別的ジョーク・排他的表現(「冗談のつもり」でもNG)
国籍いじり、ステレオタイプに基づく笑い、排他的な言い回しは、冗談であっても差別・ハラスメントになりやすい言動です。周囲が笑った瞬間、外国人本人は「ここには味方がいない」と感じやすいといえます。職場の誰かがその場で止める、上司が軽視しない、という「職場・現場のマネジメント」が重要です。
不公平な扱いや排除(会議の参加、昇進の機会、社内イベント)
会議に呼ばれない、情報共有から外される、イベントに誘われない、昇進の候補に入らない——
これらの取扱いは、不公平、排除、そして「差別」として強い不信感につながります。その理由が業務上の必要性に基づく場合でも、分かりやすい日本語や母国で十分な説明がなければ差別と疑われやすい点に注意が必要です。
名前の軽視(勝手な短縮や日本名への変更の提案など)
名前はアイデンティティの中心です。呼び間違いが続く、勝手に短縮する、日本名を勧めるなどは「自分の名前が尊重されていない」と受け取られます。
本人が希望する呼称を確認し、社内で統一するだけでも摩擦は減ります。
言語能力への嘲笑・無理解(からかう、見下す、できない前提)
発音や言い回しを笑う、からかう、見下す、質問をしたら「そんなことも分からないの?」と返す——
これらの言動は、外国人本人の尊厳を傷つけ、相談・報告をためらわせます。その結果、ミスが増えてさらに叱責が強まり、負のループが生まれます。指導の目的は改善であり、羞恥を与えることではありません。
「差別」「ハラスメント」の判断基準
(労基法3条とパワハラ6類型)
労働基準法3条(均等待遇)
~国籍を理由とする不利益取扱いはNG~
労基法3条は、国籍等を理由とする賃金・労働時間その他の労働条件での差別的取扱いを禁止しています。「国籍が理由ではない」と言うだけでは足りず、指導内容や評価方法が客観的基準に基づくこと、同種の事案で日本人にも同じ基準で運用していること、そしてそれを示す資料や記録があることが重要です。
パワハラ6類型 ~注意指導が越えてはいけない線引き~
外国人労働者に対しても、もちろん指導は必要ですが、その態様が不適切だとパワハラと評価されます。パワハラ6類型を参考にすると、注意指導とパワハラとの違いを意識することができます。例えば「みんなの前で叱る」は精神的攻撃・切り離しになりやすく、「外国人だから簡単作業だけ」は過小な要求・切り離しになり得ます。
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【パワハラ6類型】 □身体的攻撃 □精神的攻撃 □人間関係からの切り離し □過大な要求 □過小な要求 □個の侵害 |
差別・ハラスメントになりやすいポイント
差別・ハラスメントになりやすいのは、
① 人前で叱責する、見せしめにする
② しつこさ、執拗さ
③ 人格否定・人格攻撃、国籍に紐づいた注意
④ 外国人だけ厳しい、人によって対応が違う
など、です。業務上必要な注意であっても、これらが含まれると「差別・ハラスメント」と言われやすくなります。
「差別・ハラスメント」と指導・教育の違い
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差別・ハラスメント |
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「外国人なんだから仕方ない」「外国人なんだから分からないだろ」 「日本のやり方に従えないなら辞めて」 「前も言ったよね?(と言いつつ記録がない)」 |
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指導・教育 |
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【注意指導(ミスの是正)】 「昨日の出荷でラベルの貼付位置が手順書と違っていました。再発防止のため、次回からは貼付前にチェックリストの③を確認してください。分かりにくい点があれば一緒に手順を見直します。」 【人事評価(評価理由の説明)】 「今回の評価は『成果』『手順遵守』『協働』の3項目です。成果は達成していますが、手順遵守で基準未達が2件あったため総合はBです。次期は“手順遵守の改善”を目標にして、月1回振り返りを入れましょう。」 【改善指導(支援をセットにする)】 「遅刻が今月3回あり、業務に影響が出ています。まず原因を確認したいです。通勤事情やシフトの調整で解決できる可能性もあるので、選択肢を一緒に整理して、来月は“遅刻0回”を目標に進めましょう。」 |
以下の点は特に気を付けましょう。
・正しい行動例を示す際には「根拠」を提示する
→評価票、目標設定シート、業務手順書、指導記録、就業規則の該当条項など
・指導教育の際に「差別」と受け取られやすい要素は持ち出さない
→国籍・文化・宗教・名前等の要素は、業務に直結しない限り言及しない
・「空気を読む」「察する」が通じない
→外国人労働者が空気を読めず突然怒られて戸惑う事例があるため、期待値を言語化する。
「差別・ハラスメント」と言われないための予防策
~「基準の透明性×運用の一貫性×説明可能な記録×言語への配慮」~
「基準の透明性」
~評価基準の事前提示(評価項目や良い・悪い行動例)
評価基準は年1回の評価時に説明するだけでは遅いことが多いです。職種別に、期待される役割、評価項目、良い行動例や悪い行動例を具体的に提示し、入社時・配属時・評価前に繰り返し共有しましょう。
「運用の一貫性」
~日本人にも同基準、面談議事録のフォーマット化、管理職研修~
日本人であれ外国人であれ、同じ行動には同じ基準を適用する——
当たり前ですが、属人的な運用をしていては、この当たり前が簡単に崩れます。
面談議事録のフォーマット化、管理職研修、定期的な現場点検で、この「当たり前」を維持するようにしましょう。
「説明可能な記録」
~いつ、誰が、何を、どのように指導したかを記録していく~
指導記録は「懲戒処分のため」ではなく「誤解を防ぐため」の保険です。
日時、事実、基準、本人の反応、次の行動、支援策を簡潔に残すだけで、誤解を回避することができ、後の紛争リスクは大きく下がります。
「言語への配慮」
~通訳、やさしい日本語、要約——重要文書ほど丁寧に~
重要文書(評価基準や内容、懲戒処分通知書、配置転換命令書など)は、理解できる形で伝えることが肝心です。通訳、やさしい日本語、要約、図表化などを活用し、「説明した」「理解した」のズレを減らします。
相談窓口・調査・是正の体制
相談窓口がない、あっても機能していない職場では、小さな不満が外部(労働組合、行政、SNS)へ一気に流れます。
相談窓口の設置と周知、相談窓口の秘密保持、相談に対する報復防止を就業規則などで明確化し、外国人労働者にも安心して相談してもらえる体制を整えましょう。場合によれば、母国語の対応も可能な外部の相談窓口の活用も選択肢に入れましょう。
外国人労働者の人事・労務に関する3つの支援ツール(厚生労働省)の紹介
出典:厚生労働省「外国人の方に人事・労務を説明する際にお困りではないですか?~外国人労働者の人事・労務に関する3つの支援ツールを作成しました~」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/jigyounushi/tagengoyougosyu.html
1.外国人社員と働く職場の労務管理に使えるポイント・例文集
~日本人社員、外国人社員ともに働きやすい職場をつくるために~
全9カテゴリーの、雇用管理で実際に想定される場面ごとに、(1)事業主・人事担当者の方が、外国人社員に説明する前に読んで理解しておくとよいポイント、(2)実際に外国人の方にそのまま話したり見せたりして理解していただくことを目指した「やさしい日本語」による説明の例文や図表を紹介しています。
※9カテゴリー:1採用、2賃金、3労働時間及び休暇、4異動、退職及び解雇、5安全衛生及び災害補償、6ハラスメント、7退職金、8在留資格、9正社員以外の働き方 +企業の好事例
2.雇用管理に役立つ多言語用語集
人事・労務の場面でよく使用する労働関係、社会保険関係の用語約420語について、やさしい日本語のほか9言語(英語、韓国語、中国語(簡・繁)、タガログ語、ベトナム語、ネパール語、ポルトガル語、スペイン語、インドネシア語、カンボジア語、タイ語、ミャンマー語、モンゴル語)により、定義・例文を検索できる用語集。
3.モデル就業規則
そのほか、モデル就業規則やさしい日本語版[Word版]もあります。
「差別・ハラスメントだ」と言われたときの対応フロー
Step1 初動
~傾聴/不利益取扱いの禁止/健康への配慮/通訳・やさしい日本語~
最初にやることは相談に対して否定するのではなく、傾聴の姿勢です。「どの言動が」「どの場面で」「どれくらいの頻度で」問題になったのかを丁寧に聴き取ります。
同時に、申告を理由とする不利益取扱い(短絡的な配置転換など)を避け、心身不調が疑われる場合は業務調整や面談設定などの健康面の配慮もしましょう。
必要に応じて、通訳ややさしい日本語で言語面での配慮をして、何が差別・ハラスメントと感じているのかを丁寧に確認する必要があります。
Step2 事実確認
~ヒアリング/チャット等の証拠収集/記録化~
申告者、行為者、同席者などの第三者へヒアリングし、チャット、メール、評価票、指導記録、面談議事録などを収集して内容を精査します。
差別・ハラスメントの申告に対して、迅速かつ適正に対応したことを後日説明できるようにするために、できる範囲で記録化しましょう。
Step3 判断
~パワハラ6類型/業務上の必要性・態様・一貫性~
パワハラ6類型に当てはめつつ、業務上の必要性、発言内容等に人格否定があったか否か、言動が威圧的か否かとその程度、見せしめなどの公開性があるか否かなどの態様の悪質さ、外国人だけか日本人にも公平に接しているかなどの態度の一貫性を吟味しましょう。
判断が難しい場合は、弁護士や社労士の助言を得て、判断に説得力や合理性を持たせるように整えます。
Step4 措置
~該当時の是正/誤解時の説明(理解できる形で要約)~
差別・ハラスメントに当たる場合は行為者への指導や懲戒処分、配置転換などを含む是正措置と、管理職向けの研修などの再発防止措置が必要となります。
一方で、外国人労働者による誤解が大きい場合でも「誤解だ」で終わらせず、評価根拠や指導の位置づけを、理解できる言語・表現で丁寧に説明し、必要なら要約資料を作り説明を補足していきましょう。ここで「納得感」を得られるかが再燃防止の鍵です。
Step5 記録と再発防止
~制度・研修・運用への反映~
調査メモ、判断理由、実施措置、面談記録を残し、評価制度・就業規則・研修・面談の運用へと反映します。再発防止は「個人の反省」だけでは足りず、「組織の運用」を支える仕組みが必要です。
【まとめ】外国人雇用のトラブルは「基準×運用×記録×言語配慮」で防げる
外国人従業員への注意指導や人事評価が「差別」「ハラスメント」と受け取られる背景には、国籍・文化といった属性そのものよりも、基準の曖昧さ、説明不足、運用のブレ、言語のズレがあります。
外国人従業員への指導や評価を正しく行うためには、(1)評価基準の透明性、(2)運用の一貫性、(3)根拠資料と記録による説明可能性、(4)やさしい日本語・通訳・要約等の言語への配慮を整えることが重要です。とりわけ「冗談のつもり」「その場のノリ」といった言動が、本人の孤立感や不信を強め、問題を大きくする引き金になりやすい点は見落とせません。日頃から「行動と基準」に基づく指導・評価をこころがけて、相談窓口と調査手順を準備しておくことが、紛争の予防と早期解決につながります。
弁護士法人ブレイスは外国人雇用の労務対応が可能です
弁護士法人ブレイスは、外国人雇用に関する労働トラブルについて、予防(制度や運用の整備)から紛争対応(調査・交渉・申入れへの対応)まで一貫してサポートすることができます。具体的には、以下のような支援が可能です。
【予防対応】揉めない仕組みづくり(人事評価・指導方法・社内体制の整備)
・評価基準の整備(透明性・一貫性・説明可能性のある設計提案など)
・指導記録や面談議事録のフォーマット化、運用ルール整備
・ハラスメント相談窓口の設置や調査フローの整備
・管理職向けのハラスメント研修
【紛争対応】ハラスメントの申告・労働組合対応・調査支援
・「差別・ハラスメント」申告時の初動の助言、事実確認の方法の助言
・労働組合からの申入れ、書面への対応、交渉支援
・配置転換、懲戒処分、評価見直し等の法的リスク整理と実行計画のサポート
・再発防止策の作成と社内周知の支援
必要に応じて、厚労省の支援ツール(やさしい日本語・多言語用語集等)の活用も踏まえ、現場で運用できる形に落とし込むことを重視しています。
外国人雇用での注意指導・評価・ハラスメント対応に不安がある場合は、早い段階で弁護士法人ブレイス・社会保険労務士法人ブレイスまでご相談ください。




