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特定技能外国人の費用を給与から控除できる? ~貸付契約・退職時の返還条項を解説~

前回のコラムでは、特定技能外国人の費用について会社負担・本人負担の基本的な考え方を解説しました。
今回は、特定技能外国人の費用を会社が立て替える場合の考え方、給与から返済を受けるための手続、金銭の貸付契約と実質的な費用転嫁の違い、退職時の返還条項の注意点を解説します。

会社負担・本人負担の基本的な考え方については、下記の前回のコラムもあわせてご参照ください。

前回のコラム

外国人雇用の費用は誰が負担する? ~特定技能1号における費用負担の基本ルール

特定技能外国人の費用を会社が立て替えることはできるか?

本人負担の費用であれば貸付け・立替えが可能

渡航費、本人が任意に取得する資格の受験料、住居の本人負担分など、もともと本人負担の費用について、会社が一時的に支払うこと自体は可能です。

ただし、「立替え」という言葉だけで処理するのではなく、会社が誰に、何の費用として、いくら支払ったのかを明確にする必要があります。本人に現金を渡すよりも、航空会社、試験実施機関、不動産会社などへ会社が直接支払い、請求書や領収書を保存する方が、貸付金の使途と金額を確認しやすくなります。

また、本人が貸付けを希望していること、返済条件を理解していること、会社からの貸付けの提案を断ったことで不利益な扱いを受けないことも重要です。労働することを条件とした前貸しによって本人を拘束すると、労働基準法第17条の前借金相殺の禁止との関係が問題になります。

会社負担の費用を貸付金名目で回収することはできない

法令や特定技能制度上、会社が負担しなければならない費用は、貸付契約書を作成しても本人へ転嫁できません。

たとえば、1号特定技能外国人への義務的支援に要する費用や、登録支援機関への支援委託費は、受入れ企業が負担すべき費用です。会社が登録支援機関へ委託費を支払い、その金額と同額を本人への「貸付金」として計上しても、実質は会社負担費用の回収です。本人が署名した書面があっても、適法な貸付けになるわけではありません。

同様に、会社に実施義務がある法定健康診断、会社が業務命令として受講させる安全衛生教育、会社が契約した人材紹介会社への紹介料などを本人の借入金として扱うことも避けるべきです。

 

「貸付け」と「実質的な費用徴収」の違いは?

適法な貸付けと評価されるための考え方

適法な貸付けと評価されるためには、契約書の名称ではなく、貸付けの目的と実態が重要です。実務上は、次の点を確認します。

  1. 1.貸付けの対象が、法令や特定技能制度上、本人が負担することを認められている費用であること
  2. 2.本人の申出または自由な意思に基づくものであること
  3. 3.雇用契約書とは別に、金銭消費貸借契約書を作成していること
  4. 4.支払先、支払日、元金、利息の有無、返済日、返済方法が明確であること、特に外国人労働者が理解できるように母国語や分かりやすい日本語で記載されていること
  5. 5.毎月の返済額が過大でなく、本人の生活を脅かさないこと
  6. 6.退職しても返済方法を継続・変更でき、在職を事実上強制しないこと
  7. 7.返済済額と残額を本人がいつでも確認できること

このような金銭貸付に関する条件を雇用契約書の一条項として埋め込むよりも、別の契約書(金銭消費貸借契約書)として締結し、雇用の継続と返済義務を切り分ける方が適切です。

違法な費用転嫁と判断されやすい例

次のような運用は、金銭の貸付けではなく、会社負担費用の転嫁、保証金・違約金の徴収、または労働者の足止めとして労働基準法第16条(賠償予定の禁止)違反や同法第17条(前借金相殺の禁止)違反と評価される危険があります。これらに違反すると、6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金に処せられます(労働基準法第119条)。

  1. 1.登録支援機関への委託費を本人の借入金として毎月返済させる
  2. 2.採用会社が負担すべき人材紹介料を「来日準備金」として本人へ請求する
  3. 3.法定健康診断や安全衛生教育の費用を立替金として扱う
  4. 4.費用の内訳を示さず、「採用費」「管理費」として一律の金額を請求する
  5. 5.実際に支払った額を超える金額や手数料を上乗せする
  6. 6.退職した場合だけ高額な返還義務が発生する
  7. 7.返済が終わるまで旅券や在留カードを預かる

旅券や在留カードを会社が保管することは、本人の移動・退職の自由を事実上制約するため、行うべきではありません。特定技能制度上、出入国管理及び難民認定法に基づく省令・運用要領で禁止されており、発覚すれば改善命令や受入れ停止処分の対象となり得ます。

 

本人の同意があれば給与から控除できるのか?

労働基準法の賃金全額払いの原則

労働基準法第24条は、賃金を全額、労働者へ直接支払うことを原則としています。税金や社会保険料など法令に根拠があるものを除き、会社が本人に対する貸付金や損害賠償請求権を有していても、一方的に給与と相殺することはできません。このルールは、外国人労働者にも日本人労働者と同じように適用されます。

本人の同意だけで定例控除を始めない

最高裁判例(日新製鋼事件・最判平成2年11月26日)では、労働者が自由な意思に基づいて相殺に同意し、その自由意思を裏付ける合理的な理由が客観的に認められる場合には、合意による相殺を有効としています。しかし、自由な意思に基づく同意かどうかは厳格かつ慎重に判断されます。

特に、採用時に会社が用意した日本語の同意書へ署名させた場合や、同意しなければ採用・在留支援に不利益があるように受け取られる場合は、本人の自由な意思が争われやすくなります。

毎月の給与から継続的に返済額を控除する場合、本人の同意書だけで済ませず、本人に理解できる形で丁寧に説明し、かつ賃金控除に関する労使協定書を整備する必要があります。

賃金控除協定と個別の合意を整える

税金・社会保険料以外の費用を給与から控除する場合は、事業場の過半数労働組合、または適正に選出された労働者の過半数代表者との間で、書面による賃金控除協定、いわゆる24協定を締結します。24協定には、「会社貸付金の分割返済金」「寮費」「食費」など、控除する項目を具体的に定めます。

24協定は労働基準監督署へ届け出る必要はありませんが、労働者への周知が必要です。また、24協定は会社に対して一定の費目を控除しても労働基準法第24条違反にならない(つまり刑事罰が課されない)効果しかありません。

24協定があるからといって、個々の労働者との関係でその控除項目の相殺が当然に有効になるわけではありません。そもそも当該控除項目について支払義務が認められるか、認められるとして相殺が有効かは24協定とは全く別の問題です。金銭消費貸借契約書、住居利用契約書、食事提供の申込書などによって、本人が負担する根拠も別途整える必要があります。

24協定があれば何でも控除できるわけでもありません。控除できるのは、社宅・寮費、食費、会社貸付金の分割返済金など、内容と金額が明確な「事理明白なもの」に限られます。会社負担の支援費や、金額が確定していない損害賠償金を控除することはできません。

控除額と返済方法を合理的にする

毎月の返済額が大きく、本人の手取りが生活できないほど少なくなれば、自由な意思に基づく返済と評価されにくくなり、早期離職や失踪の原因にもなり得ます。

貸付金の賃金控除については、民法510条および民事執行法152条を踏まえた行政解釈(昭和63年3月14日基発150号)により、税金・社会保険料等を控除した手取り賃金額の4分の1までにとどめることが必要です(同様の考え方を示した裁判例として、不二タクシー事件・東京地裁平成21年11月16日判決があります)。

実務上は、形式的に4分の1を控除してもよいと考えるのではなく、税金・社会保険料、家賃・食費など他の控除を含めた手取り額、本人の家族への送金、返済期間を考慮し、より低い金額を設定することが望まれます。本人から増額返済の申出があった場合も、その時点で自由な意思を確認し、記録を残しましょう。

 

貸付金を給与から返済してもらう場合の実務対応

金銭消費貸借契約を労働契約と分ける

貸付けを行う場合は、雇用契約書とは別に金銭消費貸借契約書を作成します。

「会社が負担した一切の費用」のような包括的な記載は避け、航空券代○円、証明書取得費○円など、対象と金額を特定します。契約締結後に新たな費用が発生した場合は、本人の確認なく元金へ追加せず、追加の合意を作成します。

実際の支払額と証拠を一致させる

契約書に記載した貸付金額と、会社が第三者へ支払った金額を一致させます。本人へは、契約書だけでなく、請求書・領収書の写し、返済予定表を交付します。毎月の給与明細には返済額を独立した項目として表示し、残高も定期的に通知すると、何の費用がいくら残っているかを双方で確認できます。

退職後も無理なく返済できる設計にする

金銭の貸付けが適法となるためには、その貸付けが在職を前提としないことが重要です。退職した場合は、給与控除から本人の銀行振込へ変更し、合理的な分割返済を継続できるようにします。

「退職した時点で当然に残額全額の期限の利益を失う」という一括返済条項は、金額や事情によっては退職を思いとどまらせる強い圧力になります。一括返済条項を設ける場合でも、本人の支払能力、返済額、貸付けの目的を踏まえ、分割変更の協議条項を置くなどの配慮が必要です。

本人が理解できる方法で説明する

金銭消費貸借契約書、返済予定表、給与控除の同意書については、母国語訳または本人が理解できる言語の説明資料を準備します。単に読み上げるのではなく、具体的な給与明細の例を示し、毎月の総支給額、法定控除、貸付金返済額、差引支給額を説明します。

説明後は質問の機会を設け、説明日、説明者、通訳者、使用した資料、本人の回答を記録します。登録支援機関が説明を担当した場合も、雇用主として内容を確認し、説明を任せきりにしないことが大切です。

 

退職時の費用返還条項は有効か?

労働基準法第16条は違約金・損害賠償額の予定を禁止している

労働基準法第16条は、労働契約の不履行について違約金を定めたり、あらかじめ損害賠償額を予定する契約を禁止しています。退職の自由を実質的に制限し、労働者を会社へ足止めすることを防ぐためです。

そのため、「入社後2年以内に退職した場合は採用費として50万円を支払う」「在留期間満了前に退職した場合は違約金30万円を支払う」といった条項は、実際の損害と関係なく一定額を課す点で違約金または損害賠償額の予定と評価されるものであり、公序良俗(労働基準法第16条など)に違反するものとして無効となる可能性が高いと考えられます。

実際の貸付金の返済は直ちに違約金とはならない

一方、本人が本来負担すべき費用について、会社が真正な貸付けを行い、未返済残高が残っている場合、退職したというだけで返済義務が消えるわけではありません。

もっとも、会社が業務命令で受講させた研修費を、退職時に全額返還させる条項は、退職に対する制裁として労働基準法第16条に実質的に違反していると評価されやすくなります(新日本証券事件・東京地裁平成10年9月25日判決)。これに対し、本人が自由に参加を希望し、会社を退職しても利用できる資格の取得費を、独立した金銭貸付契約により合理的な条件で貸し付けた場合は、返還条項が有効とされる余地があります(長谷工コーポレーション事件・東京地裁平成9年5月26日判決等)。

このように金銭の返還請求が労働基準法第16条に違反するかは、契約書の表題や体裁にかかわらず、次の事情を踏まえて実質的に判断されます。

  1. 1.雇用契約書と区別された金銭消費貸借書があるか
  2. 2.本人が任意に貸付けや研修を希望したか
  3. 3.対象となる費用や研修が、会社の業務として命じられたものか
  4. 4.資格や研修成果が退職後も本人の利益として利用できるか
  5. 5.一定期間勤務すれば返済を免除する基準が合理的か
  6. 6。返済額、免除までの期間、退職後の返済方法が合理的か

「一定期間勤務すれば返済免除」の条項も個別判断となる

一定期間勤務した場合に返済を免除する制度は、常に有効または無効と決まるものではありません。免除期間が長過ぎる、返済額が高額である、研修が業務命令である、退職時に一括返済しか認めないといった事情が重なると、実質的な足止めと判断される可能性が高まります。

制度を設ける場合は、費用の性質、本人が得る利益、金額、免除期間、月々の減額方法を検討し、たとえば勤務期間に応じて返済対象額が段階的に減少する仕組みや、退職後も分割返済を認める仕組みを検討します。ただし、段階的に減額すれば必ず有効になるわけではなく、業務性が強い費用は会社負担とすべきです。

最終給与から残額を一括控除しない

退職時に貸付金残高がある場合でも、会社が最終給与や未払残業代から一方的に全額を差し引くことはできません。退職に伴う混乱の中で取得した同意は、本人の自由な意思に基づくものかが争われる可能性もあります。

残高と返済方法を本人へ説明し、退職後の振込による分割返済などを協議すべきです。最終給与との相殺を希望する場合は、前記の自由な意思による同意の判断枠組み(日新製鋼事件参照)と同様に、その時点での本人の自発的な申出と自由意思を客観的に確認できる書面を整え、控除額の相当性を慎重に検討する必要があります。

 

まとめ

特定技能外国人の費用を会社が立て替える場合は、本人負担費用の範囲を確認したうえで、契約書・賃金控除協定・本人が理解できる説明という3つの要件を整えることがポイントです。

名目を変えても、実態が義務的支援費用の転嫁や退職の足止めと評価されれば、特定技能の受入基準や労働基準法に抵触するおそれがあります。

雇用条件書や貸付制度、給与控除の運用に不安がある場合は、入管法と労働法の双方に精通した専門家へご相談ください。弁護士法人ブレイスでは費用負担・給与控除・貸付契約の設計についてサポートしております。

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