弁護士法人ブレイスでは、「外国人雇用トラブル相談対応セミナー~登録支援機関・人材紹介会社が押さえるべき初動対応とは?~」をテーマにセミナーを開催しました。
外国人雇用の現場では、労働条件への不満、無断欠勤・失踪、住居や私生活上のトラブルなど、登録支援機関や人材紹介会社に寄せられる相談が多岐にわたります。外国人雇用のトラブルは労働法の問題にとどまらず、在留資格や特定技能の受入基準にも直結するため、相談を受けた際の初動対応を誤ると、受入企業・支援機関の双方に大きなリスクが生じます。
本セミナーでは、相談場面を設例として取り上げ、相談を受けた際の初動対応、支援機関・紹介会社が関与できる範囲、令和9年4月に予定されている制度改正について解説しました。
本レポートでは、そのポイントを分かりやすくご紹介します。
1.相談を受ける立場と関与できる範囲
登録支援機関の義務的支援
登録支援機関は、特定技能制度上の義務的支援の一つとして、外国人からの相談・苦情への対応を担います。相談を受けた際の初動対応のポイントは次のとおりです。
- ・遅滞なく応じること
- ・本人が理解できる言語で対応すること
- ・詳細な聞き取りには中立性のある通訳を確保すること(同僚の通訳や翻訳アプリは応急的な手段にとどめる)
- ・相談記録を残すこと
- ・相談したことを理由とする不利益な取扱いを防ぎ個人情報を保護すること
人材紹介会社の早期離職者対応
人材紹介会社は、求職者から手数料を徴収することはできず、早期離職時に紹介料相当額を本人に請求することもできません。また、無期雇用で就職した者に対しては、就職日から2年間、転職を勧奨してはならないとされています。
早期離職のリスクは、外国人労働者本人への請求ではなく、企業との返戻金規定で調整することになります。
登録支援機関・紹介会社は「どこまで関与できるか」
労働条件や制度の説明、労働基準監督署・出入国在留管理庁等への案内や同行、受入企業への法令違反の是正提案は可能です。他方で、報酬を得て企業や本人の代理人として未払賃金や退職条件を交渉すれば非弁行為(弁護士法72条)のおそれがあり、報酬を得て在留資格の申請書類を作成すれば行政書士法違反のおそれがあります。
委託料や紹介料の中で行う場合でも「報酬を得て」行ったと評価され得るため、自社の業務フローを点検しておく必要があります。
2.雇用契約の不満を相談されたときの初動対応
外食業で働く特定技能1号の外国人から「残業代が少ない気がする」「面接で聞いた仕事と違い、皿洗いと清掃ばかりさせられる」「もう辞めたい」と相談があり、同じ頃、受入企業からは本人の遅刻や態度について注意してほしいと連絡があったケースを取り上げました。
初動対応は、「聴取→資料照合→振分け」の3段階で進めます。
- ①本人の母語等で、企業側を同席させずに話を聴き記録
- ②雇用条件書、給与明細、タイムカード、賃金控除に関する労使協定(24協定)と突き合わせる
- ③説明不足・誤解であれば母語で再説明し、割増賃金の未払いなど法令違反の疑いがあれば企業に是正を提案し、改善されなければ労働基準監督署を案内
支援機関の立ち位置は、どちらかの味方になることではなく「適法性の確保」です。特に、在留資格で認められた業務区分外の業務に恒常的に従事させている場合は、受入企業に不法就労助長罪のおそれが生じるため、最優先で是正を求める必要があります。企業側から懲戒・解雇の相談を受けた場合も、本人からも事情を聴いて背景を確認し、個別の有効性判断や交渉は弁護士・社労士につなぎます。
3.無断欠勤・失踪への対応
特定技能1号の外国人が無断欠勤し、電話が通じず寮にも不在で、貸与した業務用スマートフォンや制服も返還されていないというケースについて取り上げました。
初動対応
初動対応では、記録を残すことが重要です。
- ①無断欠勤を「ずる休み」と決めつけず、安否確認を優先し、連絡履歴や確認内容を時系列で記録
- ②事件・事故のおそれがあれば警察に相談
- ③就業規則に従って出勤を督促してその経過を記録し、貸与端末は遠隔ロックを検討
あわせて、ハラスメントや賃金未払いなど職場側の要因がなかったかを点検することが重要です。企業側に責めに帰すべき事由があった場合、受入企業の欠格事由や登録支援機関の登録拒否事由に関わる可能性があるためです。雇用の終了に際しては、受入れ困難に係る届出や登録支援機関の報告、ハローワークへの届出などを期限内に行います。
所在不明者の解雇
所在不明者への解雇は、意思表示の到達が難しく、特定技能では受入基準との関係でもリスクがあります。そのため、無断欠勤や連絡途絶が一定期間続いた場合や在留資格を喪失した場合の自然退職条項を、就業規則にあらかじめ整備しておくことが安全です。
なお、最終賃金は原則として本人名義の口座に支払い、家族や知人への支払いは避けます。貸与品が返還されていないことを理由に、賃金から一方的に相殺することは賃金全額払いの原則に反するおそれがあります。残された私物の無断処分も認められません。
4.費用負担と賃金控除の限界
初任給から社宅の敷金・礼金、家具・家電代、支援委託料の一部、入国時の空港送迎費を控除した結果、初月の手取りがほぼ0円となり、企業は「日本語の同意書をもらっている」と説明しているケースです。
費用の問題は、①本人に負担させてよい費用か、②賃金から控除できるか、③金額が過大でないかの順に検討します。登録支援機関への委託料を含む義務的支援の費用や、入国時・帰国時の空港送迎費は本人に負担させることができず、「生活サポート費」「研修費」などに名目を変えても同様です。借上げ社宅の家賃は、借上げ費用を入居人数で割った額の範囲内など、一定の条件のもとで本人負担とすることができます。
賃金控除については、法定控除以外は労使協定(24協定)が必要であり、本人の同意による相殺は自由な意思に基づく場合に限られる例外です。日本語の書面への署名だけでは、自由な意思に基づく同意と評価されにくい点に注意が必要です。控除額の設計にあたっては、民事執行法の差押禁止範囲(手取りの4分の3)も参考になります。
下記のコラムも併せてご参照ください。
5.「途中で辞めたら返還」契約は可能か
介護事業者が特定技能1号の外国人に介護福祉士試験の対策講座(受講料30万円)を受講させ、受講料を立て替えて給与から返済させるが、資格取得後3年間勤務すれば残額を免除し、途中で退職した場合は残額を一括返済させる、という契約を検討しているケースです。人材紹介会社からも、入社1年以内に退職した場合に渡航費と紹介手数料相当額を返還させる条項が提案されていました。
労働基準法16条は賠償予定を禁止しており、費用返還条項がこれに抵触するかは、受講が業務命令か自由意思か、返済の仕組み、金額や免除までの期間などから判断されます。さらに特定技能では、労働法上の有効性とは別に、「不当に金銭その他の財産の移転を予定する契約」を締結しないことが受入基準とされています。令和7年4月の運用要領改正により、一定期間の勤務で返済を免除する条項や、途中退職時に残額を一括返済させる条項がその該当例に加えられており、設例のような契約は特定技能では認められません。
代わりの設計としては、会社が費用を負担し資格手当や昇給で定着を図る「人材育成投資型」が最も安全であり、本人の希望に基づき、免除や一括返済の条件を付けずに退職後も同条件で返済を続ける「純粋貸付型」も条件付きで考えられます。
紹介会社の早期離職リスクは、本人への違約金ではなく企業間の返戻金規定で調整すべきとされました。
こちらのコラムも併せてご参照ください。
6.住居トラブル・私生活上のトラブルへの対応
借り上げ社宅の近隣クレーム
借上げ社宅で近隣から騒音やゴミ出しの苦情が寄せられた場合、賃借人は会社であり、放置すれば契約解除にもつながり得ます。管理会社から日時・内容・頻度を聴き、居住者全員と個別に面談して事実を確認したうえで、母語またはやさしい日本語、自治体の多言語資料などを使ってルールを再説明し、改善状況を管理会社に報告します。
退職後の退去と自力救済
退職後も社宅から退去しない元従業員に対しては、鍵の交換や荷物の搬出といった自力救済は行わず、母語訳付きの書面で退去期限を示し、応じなければ法的手続を検討します。社宅使用規程を整備し、入居時に母語で説明して同意を得ておくことが予防策となります。
私生活への介入、副業、闇バイト
私生活上のトラブルについては、①原則不介入、②在留資格や就労継続に影響する事項は指導・助言、③職場秩序等に現実的な影響が及ぶ場合に限り懲戒という3段階で整理しました。外国人の場合、私生活上のトラブルが在留資格の更新や退去強制に直結し得るため、予防的な指導は日本人以上に重要です。
YouTube等の広告収入には資格外活動許可が必要な場合があること、SNSの「即日高収入」の募集(いわゆる闇バイト)には応募をやめさせて警察相談専用電話(#9110)への相談を促すこと、寮内の喧嘩では救護を優先し、通訳を介して双方から個別に聴取・記録し、処分は日本人と同じ基準で行うことなども解説しました。
交通事故、とくに自転車事故への対応
自転車事故についても高額賠償の裁判例を紹介し、条例で自転車保険への加入が義務付けられている自治体もあることから、加入状況の確認と多言語での交通ルール指導を勧めました。なお、被害届や事故の示談交渉について、支援機関・紹介会社ができるのは制度の説明や警察署への案内・同行・通訳までであり、示談交渉は専門家に委ねる必要があります。
7.相談対応の5原則
セミナーの締めくくりとして、相談対応の5原則が示されました。
- ①記録する(日時・同席者・発言・資料)
- ②母語で確認する(契約条件・控除・退職・帰国)
- ③資料で判断する(契約書・明細・協定・規程)
- ④在留への影響を見る(在留資格・届出・受入基準への波及)
- ⑤早めにつなぐ(弁護士・行政書士等への早期連携)
このうち1つでも欠ければ支援は崩れます。自社だけで判断できない場面こそ、早めに専門家へつなぐことが、外国人本人と受入企業の双方を守ることにつながります。
弁護士法人ブレイスは外国人雇用トラブルの実務対応が可能です
セミナーレポートはいかがでしたでしょうか。
外国人雇用のトラブルは、労働法と在留資格制度の双方にまたがるため、相談の初動で「何をしてよく、何をしてはいけないか」を整理しておくことが欠かせません。令和9年4月の支援体制の見直しを控え、登録支援機関・人材紹介会社には、これまで以上に適法な業務体制が求められます。
弁護士法人ブレイスでは、弁護士と社労士が連携し、在留資格に関するご相談、外国人雇用に関する労務トラブルへの対応、就業規則・社宅使用規程・費用負担や貸付契約の見直し、登録支援機関・人材紹介会社の法的リスクの予防までサポートしています。
外国人雇用に関するご相談を受けてお困りの際は、お一人で判断せず、弁護士法人ブレイスまでお気軽にご相談ください。




