なぜ今、外国人雇用で労基署調査が増えているのか?
背景には、技能実習・特定技能の受入れ現場で「安全基準」「割増賃金(残業代)」「健康診断」など、労基署調査の中で是正勧告・指導の対象になりやすい状況が放置されていることがあります。
さらに、労基署の調査結果はそこで終わらず、技能実習は外国人技能実習機構 (Organization for Technical Intern Training、以下「OTIT」と略します)、特定技能は入管(出入国在留管理庁)へ通報・情報連携され、合同監督に発展するケースもあります。
つまり、労基署調査への対応は単なる労務問題ではなく、受入れ継続や企業信用にも影響し得る「連鎖型リスク」として捉える必要があります。
労基署調査の「きっかけ」
労基署調査のきっかけは、定期監督よりも「申告(通報)」であることが少なくありません。
外国人は「労働の範囲」が明確で不満が顕在化しやすい
外国人雇用では、在留資格との整合性や雇用条件通知書・雇用契約書などで職務や勤務条件が明確化されやすく、外国人労働者も「やるべき仕事の範囲」への意識が強く、現場の運用が少しでもズレると不満が顕在化しやすい傾向があります。
典型は賃金・割増賃金(残業代)です。「固定残業代の説明不足」「割増率の誤り」「端数処理」「休憩が取れていないのに控除されている」「タイムカード外の準備・片付けがある」などは不満が顕在化し申告につながりやすいといえます。
生活面(寮・控除・貸与品等)も不信感の火種に
さらに、生活面の扱いも火種になります。
寮費・光熱費・Wi-Fi・備品代などの天引きがある場合、根拠となる合意や明細の説明が不十分だと「勝手に控除された」と受け取られがちです。作業服や工具の貸与品、破損時の弁償、退去時の原状回復費、預り金の精算なども同様です。
言語の壁で社内相談窓口が機能しないと、監理団体・支援機関・外部相談窓口への相談へとつながり、結果として申告→調査へとつながります。
監督指導で多い違反事項をワースト3から逆算する対策
令和7年9月26日に厚生労働省が発表した「外国人技能実習生又は特定技能外国人を使用する事業場に対して行った令和6年の監督指導、送検等の状況」の結果は以下のとおりです。
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技能実習生 |
特定技能外国人 |
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1 |
安全基準(労働安全衛生法第20~25条) |
安全基準(労働安全衛生法第20~25条) |
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2 |
割増賃金の支払(労働基準法第37条) |
割増賃金の支払(労働基準法第37条) |
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3 |
健康診断結果についての医師等からの意見聴取 |
健康診断結果についての医師等からの意見聴取 |
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4 |
労働時間(労働基準法第32条) |
労働時間(労働基準法第32条) |
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5 |
衛生基準(労働安全衛生法第20~25条) |
年次有給休暇(労働基準法第39条) |
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6 |
年次有給休暇(労働基準法第39条) |
就業規則(労働基準法第89条) |
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7 |
健康診断(労働安全衛生法第66条) |
衛生基準(労働安全衛生法第20~25条) |
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8 |
就業規則(労働基準法第89条) |
賃金の支払(労働基準法第24条) |
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9 |
賃金の支払(労働基準法第24条) |
労働条件の明示(労働基準法第15条) |
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10 |
労働条件の明示(労働基準法第15条) |
健康診断(労働安全衛生法第66条) |
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11 |
賃金台帳(労働基準法第108条) |
賃金台帳(労働基準法第108条) |
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12 |
労働時間の状況の把握 |
労働時間の状況の把握 |
1.ワースト3(技能実習・特定技能共通)
①安全基準(機械等の安全)
技能実習25.0% 特定技能24.0%
②割増賃金の支払(残業代)
技能実習15.6% 特定技能17.2%
③健康診断結果への医師意見聴取(健診運用)
技能実習14.9% 特定技能16.7%
ワースト1位:安全基準(機械等の安全)
監督指導事例1(技能実習)
食肉加工機械を停止せずに詰まった肉を取り除こうとして手を挟まれ負傷した事例。再発防止として、母国語の作業手順書作成など「分かりやすい方法」で安全衛生教育を行うよう指導される。
会社は通訳を介し「危険時は停止」など作業手順を教育し、母国語手順書、イラストや翻訳ステッカーで注意喚起を実施した。
監督指導事例2(特定技能)
包装機械の刃で指を切断する災害が発生した事例。労基署は、刃部に覆いを設けるまでの機械使用停止を命令した。また、安全装置の点検整備がないこと、雇入れ時安全衛生教育がないことにつき是正勧告を下した。
会社は覆いを設置し点検リストを導入し、ふりがな等で分かりやすいマニュアルを作って教育を実施した。
送検事例1(技能実習)
昇降階段(架設通路)に手すりがなく、約12mから墜落し死亡した事例。墜落防止措置を講じなかったとして捜査・送検された。
送検事例2(技能実習)
プレス機械の光線式安全装置を無効にした状態で作業させ、手がはさまれ指切断した事例。安全措置義務違反等で捜査・送検された。さらに、切替キースイッチ管理(作業主任者の保管不備)も指摘対象とされている。
予防策 —「見える・理解できる・仕組みで防ぐ」が鍵—
① 作業手順の“見える化”
事故は「知らなかった」「ルールが曖昧だった」が原因で起きます。
点検・修理・詰まり除去など非定常作業ほど、停止手順(電源OFF→ロックアウト等)と禁止事項を、写真・ピクトグラム・短い動画で示し、機械の近くに掲示します。文章だけでなく、赤×印や手順番号など視覚情報で伝えると、言語の壁を越えやすくなります。
② 外国人に“理解できる”安全衛生教育
教育は“実施すること”ではなく“理解させること”が重要です。
母国語資料や、やさしい日本語とふりがな、さらには図解で説明し、危険ポイント(巻き込まれ、切創、挟まれ等)と停止の必要性を具体例で示します。受講後は口頭での確認やミニテストで理解度を確認し、理解が浅い人には再教育を行います。特に「止めずにやってはいけない作業」を明確にし、現場リーダーが日常的に声掛け・是正できる体制を作ると効果的です。
③ “仕組みで防ぐ”設備対策の徹底
最後は“仕組みで防ぐ”です。
覆い・ガード・手すりの整備、非常停止装置の適正な配置、安全装置の無効化・改造を禁止するルール化と点検を徹底します。非定常作業は原則として停止してから作業し、どうしても停止できない工程があるなら、代替手順・保護具・監視体制など追加の安全措置を設計します。
ワースト2位:割増賃金(残業代)
監督指導事例1(技能実習)
OTITからの通報で労基署が立入した事例。技能実習生5名の賃金が最低賃金未満、週40時間超の割増賃金不払が判明し是正勧告を下す。さらに年休5日の時季指定未実施も是正対象となった。
会社は契約を最低賃金以上に見直し、最低賃金・割増賃金の不足分合計約8万円を支払った。また、年休は面談で計画的に指定・取得管理する運用に変更した。
監督指導事例2(技能実習)
技能実習生の申告を受け労基署が立入した事例。
休憩中に労働させた分の賃金が一部未払い、早退時間に関係なく一律「半日欠勤」扱いで控除していたため是正勧告を下した。
会社は休憩中労働分と過剰控除分として合計約2万円を支払った。
監督指導事例3(特定技能)
労使協定(24協定)なしで家賃・光熱費・工具代を控除していた、特定技能だけの特別手当を割増賃金の算定基礎含めていない、健診結果の医師意見聴取なし、是正勧告をした。
会社は24協定を締結し工具代は会社負担に変更した。また、割増不足約12万円を支払い、医師意見聴取も実施した。
送検事例(技能実習)
36協定の未届のまま時間外・休日労働をさせ、割増賃金も不払いであった。立入時に虚偽のタイムカードや賃金台帳を提出して隠蔽しようとし、捜査・送検された。
①「労働時間」の棚卸し(見落としがちな時間)
まずは勤怠の“実態”を洗い出します。
始業前の朝礼・段取り・準備、終業後の片付け・清掃、着替えや保護具の装着、点呼・申し送り、手待ち(指示待ち)などは、運用次第では労働時間に該当します。タイムカード打刻の前後に業務が常態化していないか、休憩時間が実際に休めているか(電話当番・来客対応等を含む)を確認し、「何を労働時間と扱うか」を社内で統一します。
②本人が理解できる説明(多言語)
会社のルールを一方的に伝えるだけでなく、外国人労働者本人が“納得できる説明”が重要です。
「職務」概念が明確な外国人労働者には不満がたまりやすい点であることに留意する必要があります。
残業申請・承認の手順(事前申請か事後申請か、例外時の扱い)、給与明細の見方(基本給・手当・割増の内訳)、控除の理由と根拠(寮費・光熱費・備品代など)、相談窓口(社内・外部)の導線を、多言語や「やさしい日本語」で文書化します。
③協定書の整備
時間外・休日労働をさせる場合は、“36協定”を締結し届出する必要があります。また、寮費や光熱費、備品代などを賃金から控除する場合は、“24協定”(賃金控除に関する協定)を締結し、控除項目・金額(算定方法)・精算方法を明確にします。
あわせて就業規則や社宅規程、労働条件通知書(雇用契約書)にも根拠を示し、「実態」「説明」「書類」が一致する状態にしておくことが、労基署調査で有効になります。
ワースト3位:健康診断
外国人雇用で起きやすい落とし穴
- そもそも健診個人票の作成・保存(保存年限)
- 異常所見がある場合の医師等の意見聴取が未実施
- 海外で健診を受けたが、日本の要件を満たさず雇入れ時健診の再実施が必要
予防策 —「実施」「記録」「医師意見」をセットで整える—
健康診断は「受けさせる」だけで終わりません。労基署で調査されるのは、
①実施(誰が、いつ)
②記録(残っているか)
③医師の意見(所見への対応)
がそれぞれ整備されているか否かです。
まず、雇入れ時には医師による健康診断を実施する必要があります(安衛法66条1項、安衛則43条)。ここで注意したいのが、国外で受けた健診です。日本の医師法に基づかない医師による健診は、原則として雇入れ時健診にならないため、入国後に改めて雇入れ時健診を実施する必要があります。
次に、雇入れ時健診は健康診断個人票を作成し、5年間保存しなければなりません(安衛法66条の3、安衛則51条)。
さらに、健診結果に異常所見がある場合は、就業上の配慮や配置転換等の必要な措置について、医師または歯科医師の意見聴取を行う義務があります(安衛法66条の4)。
なお、健診の未実施や結果の未記録は、50万円以下の罰金の対象となり得ます(安衛法120条1号)。
労基署調査の影響
—OTIT・入管への波及と受入れ停止リスク—
労基署の指摘は「是正して終わり」ではありません。
技能実習はOTIT、特定技能は入管へと情報が連動しやすく、労基法違反が在留や受入れ継続の問題に発展するリスクがあります。特に中小企業では、受入れ停止=事業停止に直結しかねません。
1.技能実習への影響(OTITへの通報の結果)
- OTITによる報告徴収、帳簿提示命令、立入検査等
- OTITによる改善命令
- 技能実習計画の認定取消、監理団体への処分(許可取消・業務停止等)
- 認定取消による実習生との契約解消、実習先変更(転籍)
- 取消日から起算して5年間は新規受入れ制限
- 結果として、現場の要員計画が崩れ、採用・教育コストが増えるリスクが高い
2.特定技能への影響(入管への通報の結果)
- 入管による指導・助言、報告徴収・立入検査
- 改善命令処分・公表の対象
- 関係法令違反で罰金刑等を受けた場合に一定期間(例:5年)の欠格事由
- 現在の受入不能(契約解消)、5年間は新規受入れ制限となるリスク
3.悪質事案は送検→報道→信用低下へ
- 「隠蔽」「虚偽資料」「安全装置無効化」などの悪質事案は送検されるリスクがある
- 送検に至ると、取引先・金融機関・採用市場での信用低下、監査の強化、顧客との取引解消の引き金になり得る
まとめ:外国人雇用は「労基署対応=受入れ継続リスク」
—まずは安全・残業代・健診で失点防止を徹底する!—
外国人雇用では、労基署調査の是正勧告等がOTIT(技能実習)や入管(特定技能)へ連動し、是正勧告だけで終わらず受入れ停止や信用低下に波及する可能性があります。
失点を防ぐ要点は3つ。
①現場は安全基準面で「見える・理解できる・仕組みで防ぐ」を徹底する。
②勤怠は労働時間の実態把握と割増賃金の正確な支払い。
③健康診断は「実施」「記録」「医師意見」をセットで整える。
早めの整備が最大の予防策です。
弁護士法人ブレイスは、外国人雇用に関する労務管理について、社会保険労務士法人ブレイスを併設している強みを活かしたサポートができます。具体的には、以下のような支援が可能です。
①労基署調査への「事前予防」パッケージ
安全(機械・作業手順)、勤怠(残業・割増賃金)、健診(記録・医師意見)を中心に、現場運用と書類をセットで点検し、指摘されやすい穴を事前に塞ぎます。
②外国人向けの就労ルールの整備(多言語・やさしい日本語)
雇用条件通知書、賃金明細の見方、控除(寮費・備品等)の根拠説明、相談窓口の案内を、母語・やさしい日本語・図解で整備し、申告(通報)リスクを低減します。
③勤怠・賃金の実態監査と是正(未払い残業対策)
サービス残業の有無、端数処理、割増率、手当の算定基礎、36協定・24協定の適否を確認し、未払い残業問題の芽を早期に是正します。
④技能実習・特定技能のコンプライアンス一体支援
OTIT・入管への影響を見据え、労務(労基法・安衛法)と在留制度対応を分断せず、受入れ継続を前提に一体的な運用設計・改善計画を提案します。
⑤労基署調査の当日対応・是正報告サポート
労基署調査への立会い、質問への対応と事前準備、資料提出の優先順位付け、是正計画書・報告書の作成支援まで一貫して対応し、再発防止策まで整えます。
⑥社内研修・管理職向け教育
「職務範囲の伝え方」「残業命令・申請の運用」「控除の説明」など、現場で揉めやすい論点を短時間で共有し、トラブルの芽を摘みます。
外国人雇用の不安や、労基署調査への備えを“点”ではなく“仕組み”として整えたい企業様は、弁護士法人ブレイスまで、ぜひ一度ご相談ください。




