はじめに
企業がフリーランスを活用する場面は、IT、デザイン、ライティング、建設、美容、物流など幅広い分野に広がっています。専門性の高い人材を機動的に確保できる点は大きなメリットですが、その一方で、近年は企業に求められる法的対応も大きく変わっています。
とくに重要なのが、フリーランス保護法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)による取引の適正化・就業環境配慮義務と、改正労働安全衛生法による健康・安全配慮義務の拡充です。
本コラムでは、実務上どこに注意すべきか解説します。
まず押さえたいポイント:フリーランス対応は「契約」だけでなく「就業環境の整備」と「安全への配慮」まで必要
企業が見直すべき3つのポイント
フリーランス活用にあたり、企業が見直すべきポイントは大きく3つあります。
① 取引の適正化
取引条件の明示義務、報酬支払期日の設定と支払義務、禁止事項(遵守事項)など
② 就業環境配慮義務
募集情報の的確な表示義務、妊娠出産、育児介護に対する配慮義務、ハラスメントへの措置義務、解除等の予告義務など
③ 健康・安全配慮義務
健康や安全を損なうことのないように業務内容や発注方法に配慮することなど、もはや「業務委託だから契約書だけ整えれば足りる」という時代ではありません。
近年の法改正で何が変わったのか
フリーランス保護法は、取引の適正化に加え、フリーランスが安心して働ける環境の整備を企業に求めています(法第1条)。また、改正労働安全衛生法では、従業員に対する健康・安全配慮義務がフリーランスにまで拡充され、その重要性がより明確になりました(労働安全衛生法3条3項、30条の4)。
企業としては、契約締結時の条件提示だけでなく、委託開始後の運用や業務遂行中の配慮まで視野に入れた対応が必要です。
フリーランス保護法とは?企業が押さえるべき義務の全体像
フリーランス保護法の目的と対象
まず、フリーランス保護法の柱は、「取引の適正化」と「就業環境の整備」です。対象となるのは、フリーランスを取引相手として業務委託をする事業者です。企業規模を問わず、継続的に外部人材を活用しているのであれば、無関係とはいえません。
ここでいう「フリーランス」(法律上は「特定受託事業者」を呼ばれています)は、業務委託の相手方である事業者であって従業員を使用しない者をいいますが、ここには「個人」だけでなく「一人社長」も含みます。「法人=フリーランス保護法の対象外」ではないないことにご注意ください。
企業が特に押さえるべき主な義務
企業が押さえるべき義務は、大きく次のとおりです。
取引の適正化
① 取引条件の明示義務(フリーランス保護法3条)業務内容、報酬額、支払期日などは、後日の認識違いや紛争を防ぐため、あらかじめ明確にしておく必要があります。 ② 報酬支払期日の設定と期日内の支払義務(フリーランス保護法4条)報酬の支払い期日は、フリーランスの給付を受領した日から起算して60日以内に設定しなければなりません。当然ながら設定した期日内に支払う必要があります。 ③ 遵守事項(フリーランス保護法5条)フリーランス側に責任がないのに「納品された物品や成果物を受け取らないこと」「発注時に決めた報酬を一方的に減らすこと」「受け取った成果物を返品すること」などが禁止されています。 |
就業環境の整備
④ 募集情報の的確な表示(フリーランス保護法12条)フリーランスを募集する際は、実態と異なる好条件を示して応募を集めることは避けなければなりません。業務内容や報酬などの条件は、誤解が生じないように正確かつ最新のものを示すことが重要です。 ⑤ 妊娠、出産、育児、介護に対する配慮(フリーランス保護法13条)フリーランスが育児や介護等と業務を両立できるように、フリーランスの申出に応じて必要な配慮をしなければなりません。 ⑥ ハラスメント対策(フリーランス保護法14条)フリーランスに対するハラスメント行為に対する相談対応のための体制整備などの措置を講じなければなりません。 ⑦ 契約終了時のルール(同法16条)契約の中途解除や契約不更新の際には、原則として、30日前の事前予告が必要となります。また、予告後にフリーランスから請求があった場合は、理由の開示も必要となります。 |
このように、企業には単に契約書を作成・管理するだけでなく、募集、業務遂行中の対応、契約終了時の対応まで含めて、フリーランスとの関係全体を見渡した対応が求められます。
違反時の行政対応と罰則
フリーランス保護法に違反した場合、発注事業者は行政機関の調査を受け、指導・助言や勧告の対象となります。
2024年10月1日、公正取引委員会は、取引の適正化に関する規制違反に係る対応について以下を発表しましたが、勧告を行った場合に事業者名等を公表する方針が示されたことは重要です。事業者名等が公表されると信用低下に繋がるリスクがあるため、普段から取引の適正化を徹底する必要があります。
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参考 |
さらに、勧告に従わない場合にはさらに命令が発せられ、命令違反には50万円以下の罰金が科されます。
フリーランス本人から行政機関へ申出がされることもあるため、企業は日頃から運用体制を整えておくことが重要です。
就業環境整備義務を企業はどう実装するか
ハラスメント対策として企業に求められること
フリーランスであっても、企業との関係の中でハラスメント(セクハラやパワハラ)の被害を受ける可能性があります。そのため、企業には相談窓口の整備、相談したことを理由とする不利益取扱いの禁止、担当者への教育・周知が求められます。
実務上は、従業員向けの既存窓口をフリーランスにも利用可能とする方法や、外部窓口を活用する方法が考えられます。重要なのは、制度を作るだけでなく、実際に相談しやすい状態にしておくことです。
なお、業務を遂行する上で必要かつ相当な範囲で行われる適正な指示や通常の取引行為としての交渉の範囲内の話合いについては、フリーランスへのパワハラには該当しません。他方、契約内容に基づき成果物を納品したにもかかわらず正当な理由なく報酬を支払わないことや、報酬を減額することを度を超して繰り返し示唆・威圧的に迫ることなどは経済的ハラスメントとして「パワハラ」に該当するとされていることには留意が必要です。
育児・介護等への配慮と相談対応体制の整備
フリーランス保護法では、育児や介護などと両立しやすい就業環境への配慮も求められます(フリーランス保護法13条)。これは企業がフリーランスの希望をすべて受け入れなければならないという意味ではありませんが、申出があった場合に双方の事情を踏まえて検討し、一方的に切り捨てないことが重要です。
たとえば、打合せ時間の調整、納期設定の見直し(納期を短期間繰り下げるなど)、連絡方法の工夫(対面での手渡しから宅配便での郵送に切り替えなど)、一部業務をオンライン化するなど、実務上取り得る配慮は少なくありません。
こうした相談を受け止める窓口を整え、対応方針を社内で共有しておくことが、トラブル防止につながります。
募集情報の表示で注意すべきポイント
上述のとおり、事業者名、業務内容、報酬、連絡先などの基本情報は、誤解のないよう明示する必要があります(フリーランス保護法12条)。
たとえば、実際には追加作業が多く発生するのに業務範囲を曖昧にしたり、条件付きの報酬をあたかも当然に受け取れるかのように示したりすると、後の紛争の火種になります。
これは自社サイトだけでなく、SNSや募集媒体でも同様です。短い文面で募集する場合でも、必要情報を欠かさず、詳細条件に誘導できる設計が望まれます。
改正労働安全衛生法でフリーランス対応はどう変わるか
改正のポイントは「健康・安全配慮の拡充」
近年の改正労働安全衛生法の重要なポイントは、フリーランスの健康・安全への配慮が従来以上に強化されたことです。令和8年(2026年)4月1日には、労働者と同じ場所で働くフリーランス(個人事業者等)を、元方事業者・注文者等が講ずる安全衛生措置の対象に本格的に組み込まれました。特に、建設や物流、製造などでは、同じ現場で働く個人事業者も安全衛生対策の対象として考える必要があります。
また、現場業務に限らず、発注の仕方そのものが健康を害するものであってはならないという視点も重要です。企業は、雇用契約の有無だけで線を引くのではなく、実際に業務に従事する人への影響を考慮すべき場面が増えています。
近年、フリーランス(個人事業者等)に関する労働安全衛生法の改正はめまぐるしいですが、概要を整理すると以下のとおりです。
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施行日 |
フリーランス関係の変更内容 |
主な追加・改正条項 |
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令和5年4月1日 省令改正 |
危険有害作業のうち、主に健康障害防止に関する措置について、一人親方等・同じ場所で作業する労働者以外の者にも、労働者と同等の保護を及ぼす方向で拡張。背景は建設アスベスト最高裁判決(最判令和3年5月17日)。 |
安衛法22条に基づく関係省令。 例:有機則、鉛則、四アルキル鉛則、特化則、酸欠則、粉じん則、石綿則、高圧則、電離則等の掲示・周知・設備稼働・保護具等に関する規定。 |
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令和7年4月1日 省令改正 |
危険箇所・危険作業場所に関する立入禁止、搭乗禁止、退避、火気使用禁止、悪天候時作業禁止等を、請負関係の有無にかかわらず、当該場所で作業する労働者以外の者にも及ぼす。 |
安衛法20条・21条等に基づく4省令改正。 安衛則、ボイラー則、クレーン則、ゴンドラ則。代表例として安衛則128条、151条の7、151条の9等、クレーン則28条・29条等。 |
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令和7年5月14日 法律改正の一部施行 |
注文者等について、施工方法・作業方法・工期・納期等に関し、安全衛生を損なう条件を付さないよう配慮すべきことを明確化。建設工事に限らず「仕事を他人に請け負わせる者」へ広げる方向。 |
安衛法3条3項。 令和7年法律33号は同日公布。 |
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令和8年4月1日 法律改正の主要部分の施行 |
労働者と同じ場所で働く個人事業者等を、元方事業者・注文者等が講ずる安全衛生措置の対象に本格的に組み込む。混在作業場所での統括管理、作業間連絡調整、救護措置、元方の指導・指示、注文者の違法指示禁止、機械・建築物貸与者の措置などが拡張。 |
安衛法4条、9条、15条、15条の3、25条の2、26条、27条、29条、29条の2、30条、30条の2、30条の3、31条、31条の3、31条の4、32条、33条、34条等。 |
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令和9年1月1日 法律改正 |
個人事業者等の業務上災害が発生した場合に、災害発生状況等について厚労省側が報告を求められる仕組みを創設。 |
安衛法100条の2が新設される予定。 「業務上災害報告制度」の創設。 |
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令和9年4月1日 法律改正 |
個人事業者等自身に対し、労働者と同一場所で作業する場合の義務を導入。例:規格・安全装置を備えない機械等の使用禁止、定期自主検査、危険・有害業務に就く際の安全衛生教育受講等。あわせて、作業場所管理事業者に連絡調整措置を義務付け。 |
安衛法42条2項・3項、45条2項・3項、59条4項、60条の2第2項、作業場所管理事業者関係として30条の4、32条4項・7項・8項、36条等。 |
現場型業務・非現場型業務で企業が注意すべきこと
建設、物流、製造などの現業型業務・現場型業務では、上記法改正の状況を意識しながら危険情報の共有、安全教育、作業ルールの周知といった対応が中心になります。
他方、IT、デザイン、ライティングなどの非現業型業務・非現場型業務でも、無理な納期設定や長時間労働を前提とする発注は問題になり得ます。たとえば、度重なる仕様変更をしながら納期を維持させる、深夜対応を当然視する、といった運用は見直す必要があります。
健康・安全への配慮は、法令対応としてだけでなく、優秀な人材に継続して選ばれる企業であるためにも重要となります。
企業が見落としやすい実務上のリスク
「業務委託」のつもりでも労働者性が争点になる場合
形式上は業務委託契約であっても、実態として指揮命令が強く、拘束時間が長く、仕事を断りにくい関係にある場合には、「労働者」と扱われて労基法や労働契約法等の規制(割増賃金や解雇権濫用法理など)が適用される場合があります。
企業としては、「契約書上は業務委託だから問題ない」と考えるのではなく、実際の運用がどうなっているかを確認する必要があります。法的評価は契約の名称ではなく実態で判断されるので、注意が必要です。
現場任せの運用によるトラブル
フリーランス対応を現場担当者に任せっきりになると、募集条件が案件ごとにばらついたり、ハラスメント相談が適切に対応されなかったり、無理な納期設定が常態化したりしかねません。
こうした属人的な運用は、法令違反のリスクを高めるだけでなく、企業の信用低下にもつながります。少なくとも、契約条件、相談窓口、ハラスメント対応、納期設定の基本ルールは、本社の管理部門・人事部門を中心に社内で共通化しておくことが不可欠です。
まとめ:フリーランス保護の強化は、継続的な人材活用の基盤になる
今後の企業対応で重要な視点
フリーランスの活用において重要なのは、法令遵守だけで終わらせないことです。
契約の明確化、相談体制の整備、健康・安全への配慮を一体として設計し、実際の発注・運用に落とし込む必要があります。外部人材の活用が広がる中で、安心して働ける環境を整えることは、企業にとっても継続的な人材確保の基盤になります。
こんな場合は要注意!
次のような状況がある場合は、フリーランス保護法や労務管理上のリスクが生じやすいため、自社の運用を見直すことが重要です。
☑ 業務内容や報酬を口頭で曖昧なまま依頼している
☑ 募集時の条件と実際の条件が異なる
☑ 相談窓口がなく、ハラスメントの申出先が決まっていない
☑ 短納期や深夜対応を当然のように求めている
☑ 自社従業員と同じように細かく指示し厳しく指導している
専門家への相談を検討すべき場面
契約内容と実態にズレがある場合や、すでにトラブルが生じている場合には、社内 の判断だけで進めるのは危険です。就業環境整備義務や安全配慮義務の運用に不安がある場合を含め、早い段階で弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。
弁護士法人ブレイス・社会保険労務士法人ブレイスは、こうした労務管理や社内ルール整備を一体的に支援する専門家集団です。
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