外国人労働者が突然無断欠勤し、そのまま失踪してしまうケースは、技能実習制度や特定技能制度を利用する企業にとって大きな課題です。安否確認だけでなく、労務管理、在留資格に関する届出、雇用契約の終了手続など、企業には短期間で複数の対応が求められます。本コラムでは、外国人労働者が無断欠勤・失踪した場合の実務対応を解説します。
※技能実習制度は令和9年(2027年)から育成就労制度への移行が予定されています。本コラムは令和8年(2026年)7月現在の制度を前提としており、今後、届出や手続の内容が変更される可能性があります。
外国人労働者の無断欠勤・失踪時の注意点
1 安否確認、労務管理、在留管理が同時に問題になる
外国人労働者が無断欠勤した場合、単なる欠勤として扱うのではなく、まずは事故や事件に巻き込まれていないかを確認する必要があります。その一方で、就業規則に基づく労務管理や、在留資格に関する手続も並行して進めなければなりません。
特に外国人労働者の場合は、言語や生活環境の違いから、病気やトラブルに巻き込まれていても会社へ連絡できないケースもあります。また、無断欠勤が長期化した場合には、雇用契約だけでなく在留資格にも影響を及ぼす可能性があります。
2 技能実習・特定技能では制度特有の届出も必要になる
技能実習生や特定技能外国人が失踪した場合、通常の労務管理だけでなく、各制度に基づく関係機関への連絡や届出も必要になります。たとえば、監理団体や登録支援機関への情報共有、出入国在留管理庁への届出など、一般の従業員とは異なる対応が求められます。
これらの制度では、受入企業に対し、外国人材を適切に受け入れ、支援する責任が課されています。そのため、失踪が判明した場合には、関係機関と連携しながら、必要な手続を速やかに進めることが重要です。対応の遅れや届出漏れがあると、行政指導や今後の受入れに影響する可能性もあるため、制度ごとのルールを事前に確認しておく必要があります。
まず会社が行うべき初動の対応(安否確認が最優先)
無断欠勤としての労務管理上の対応
1 就業規則上の無断欠勤の取扱いを確認する
まず、就業規則に無断欠勤や音信不通の場合の取扱いが定められているか確認します。欠勤控除の計算方法や懲戒処分事由の内容などの確認が必要となります。
2 欠勤控除や懲戒処分の前提となる調査を行う
本人と連絡が取れないからといって直ちに懲戒処分を行うことは適切ではありません。無断欠勤の理由や事情を十分調査することが重要です。
3 解雇か?自然退職か?
長期間連絡が取れない場合でも、自動的に雇用契約が終了するわけではありません。
就業規則に退職事由の規定が存在すれば解雇せずに自然退職扱いでよいですが、そのような規定がない場合は解雇の手続を踏む必要が生じます。
雇用契約を終了させる場合の注意点
1 解雇を行う場合の注意点
無断欠勤のみを理由に直ちに解雇できるわけではありません。連絡状況、欠勤期間、改善の機会などを総合的に考慮する必要があります。
2 解雇の意思表示をどのように到達させるか
解雇通知は、内容証明郵便など本人への到達を立証しやすい方法を用いることが一般的ですが、相手方が受領しない場合や所在不明の場合には、到達の有無が問題となります。
3 特定技能制度では非自発的離職に当たる可能性に注意する
特定技能外国人については、解雇手続を行うと非自発的離職に当たり、原則として1年間、新たな特定技能外国人を雇用(受け入れ)できなくなるリスクがあります。
4 自然退職扱いをする場合は就業規則の定めが重要になる
そのため、以下のような自然退職事由を定めておきたいところです。
【就業規則例】
- 就労可能な在留資格を喪失したとき
- 無断欠勤が一定日数継続したとき
- 会社との間で音信不通となり、その状態が一定日数継続したとき
雇用契約の終了に伴う問題
1 最終賃金をどのように取り扱うか
雇用契約が終了する場合でも、既に発生している賃金は支払う必要があります。労働基準法は、本人または緊急連絡先等の権利者から請求があった場合、7日以内に賃金を支払い、積立金その他の金品を返還するよう定めています。振込先が分かっている場合は通常どおり支払い、受領が確認できない場合や振込先に問題がある場合は、対応記録を残しつつ弁済供託の利用も検討します。
2 本人の私物をどのように保管・返還するか
会社内や社宅内に本人の私物が残されている場合でも、会社が直ちに処分することは避けるべきです。まずは私物の内容を確認し、写真やリストを作成するなどして保管状況を記録しておきます。そのうえで、本人や緊急連絡先に返還方法を確認し、一定期間保管した後の取扱い(処分など)についても慎重に判断する必要があります。
3 社宅の明渡しや残置物をどう処理するか
外国人労働者が社宅を利用していた場合、失踪後も荷物が残されたままになることがあります。この場合も、会社が無断で室内に立ち入ったり、残置物を処分したりすることにはリスクがあります。賃貸借契約や社宅規程の内容を確認し、必要に応じて本人・保証人・緊急連絡先への連絡、必要に応じて明渡しの法的手続を検討しながら対応することが重要です。
4 貸与品(PC・制服・社員証・鍵等)の回収方法をどうするか
PC、制服、社員証、鍵、携帯電話などの貸与品が返還されていない場合は、まず貸与品の一覧を整理し、未返還品を特定します。そのうえで、本人や緊急連絡先に返還を求める連絡を行い、その経過を記録しておきます。
特にPCや社員証、鍵などは情報漏えいや不正利用のリスクがあるため、アクセス権限の停止や鍵の交換など、被害防止措置も併せて検討すべきです。
在留管理上の対応
1 技能実習の場合の対応
① 実習実施者は監理団体に遅滞なく連絡する
技能実習生が無断欠勤・失踪した場合、企業は監理団体に速やかに連絡し、欠勤開始日、本人への連絡状況、緊急連絡先から得た情報などを共有します。
② 監理団体は技能実習実施困難時届出書を提出する
失踪により技能実習の継続が困難となった場合、監理団体は遅滞なく「技能実習実施困難時届出書」を提出します。企業側も、経緯や安否確認の状況を整理しておくことが重要です。
2 特定技能の場合の対応
① 受入企業は受入れ困難に係る届出を行う
特定技能外国人が失踪し、受入れの継続が困難となった場合、受入企業は失踪を把握してから14日以内に、出入国在留管理庁に「受入れ困難に係る届出」を行います。登録支援機関にも早期に共有しましょう。
② 届出期限と記載内容を確認する
届出にあたっては、期限や記載内容を確認し、失踪の経緯、本人への連絡状況、雇用契約の終了見込みなどを整理します。労務上の対応と矛盾しないよう注意が必要です。
3 外国人雇用状況の届出も忘れずに!
外国人労働者が離職した場合、事業主はハローワークに外国人雇用状況の届出を行う必要があります。これは技能実習や特定技能に限らず、外国人労働者を雇用している企業に広く求められる手続です。雇用契約の終了日や在留資格などを確認し、届出漏れがないよう社内でチェック体制を整えておくことが大切です。
失踪を防ぐために平時から企業が行うべき対策
1 労働条件を入社前に丁寧に説明する
失踪を防ぐためには、入社前の段階で労働条件を丁寧に説明し、本人の理解を得ておくことが重要です。賃金、労働時間、休日、残業の有無、控除される費用などについて、母国語や本人が理解しやすい言葉で説明することが望ましいです。入社後に「聞いていた内容と違う」と感じさせないことが、トラブル予防につながります。
2 母国語ややさしい日本語で相談できる体制を整える
外国人労働者は、言語や文化の違いから、職場での不安や不満をうまく伝えられないことがあります。そのため、母国語ややさしい日本語で相談できる窓口を設けるなど、早期に悩みを把握できる体制づくりが重要です。小さな不満の段階で対応できれば、無断欠勤や失踪といった深刻な事態を防ぎやすくなります。
3 賃金、労働時間、住環境、ハラスメント対策を見直す
失踪の背景には、賃金への不満、長時間労働、住環境の悪さ、職場での孤立やハラスメント等があることも少なくありません。受入企業としては、日頃から労働時間や賃金の支払い状況、社宅環境、職場内の人間関係を確認することが重要です。問題がある場合には早期に改善し、外国人労働者が安心して働ける環境を整える必要があります。
4 監理団体や登録支援機関と日頃から連携しておく
技能実習や特定技能では、監理団体や登録支援機関との連携が失踪防止に大きく関わります。平時から本人の勤務状況や生活状況について情報共有しておくことで、異変に早く気づくことができます。トラブルが発生してから連絡するのではなく、日頃から相談しやすい関係を築いておくことが、迅速な初動対応にもつながります。
最後に
外国人労働者の無断欠勤・失踪では、安否確認を最優先に行いながら、労務管理、在留管理、各種届出を並行して進める必要があります。特に技能実習や特定技能の場合には、監理団体・登録支援機関との連携や、制度上必要となる届出も問題となるため、通常の従業員とは異なる慎重な対応が求められます。
また、雇用契約を終了させる場合にも、解雇や自然退職の有効性、最終賃金の支払い、私物・社宅・貸与品の取扱いなど、検討すべき事項は多岐にわたります。対応を誤ると、労務紛争や行政上の問題に発展するおそれがあるため、早い段階で状況を整理し、適切な手順を踏むことが重要です。
弁護士法人ブレイスでは、外国人雇用に関する労務問題をはじめ、就業規則の整備、解雇・懲戒処分への対応、在留資格に関する各種手続への助言まで、企業の実情に応じたサポートを行っています。外国人労働者の無断欠勤・失踪対応でお困りの際は、お一人で判断せず、お気軽に当事務所までご相談ください。




