ブレイスコラム

能力不足社員を解雇する場合のチェックポイント ~解雇を争われないために~

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能力が足りなければ解雇していいの?
顧問先の企業様からよくご相談いただく問題の1つに、能力不足社員の解雇があります。
会社が期待する能力に達しない社員を解雇したいと考えるのはごく自然な経営判断ですが、そのような社員であっても、解雇する場合には遵守すべきポイントがいくつか存在します。
このコラムでは、能力不足社員を解雇する場合に注意すべきポイントを解説します。

【能力不足社員の解雇が有効となる要素】

エース損害保険事件(東京地決平13.8.10)は、「労働能力が著しく低く会社の事務能率上支障があると認められたとき」を理由になされた解雇が有効となるための考慮要素として、以下の事情を列挙しています。

① それが単なる成績不良ではなく、企業経営や運営に現に支障・損害を生じまたは重大な損害を生じるおそれがあり、企業から排除しなければならない程度に至っていること
② 是正のため注意し反省を促したにもかかわらず、改善されないなど今後の改善の見込みもないこと
③ 使用者の不当な人事により労働者の反発を招いたなどの労働者に宥恕すべき事情がないこと
④ 配転や降格ができない企業事情があること

上記①~④の事情について、もう少し詳しく見てまいります。

【解雇を争われないために、どのような対応が必要か】

①に関しては、多くの裁判例では、少なくとも「平均的な水準に達していないというだけでは不十分であり、著しく労働能力が劣っていること」まで要求されています(セガ・エンタープライゼス事件-東京地決平11.10.13等)。
「著しく労働能力が劣っていること」を立証できるよう、日常の労務管理において、日報、クレーム報告書、社内議事録、面談記録、本人の始末書、顛末書、反省文などを書面化しておくことが必要です。

②に関しては、要するに、指導・教育・研修により能力不足を解消して解雇を回避する努力が要求されています。「指導・教育・研修」を立証できるよう、日常の労務管理において、注意書、指導書、メール、社内議事録、面談記録、研修の受講書などを書面化しておくことが必要です。

③に関しては、裁判例ごとに種々の事情が考慮されています。社員に不当な人事を行い、社員のモチベーションを下げることは厳に慎むべきといえます。

④に関しては、要するに、配転や降格により解消して解雇を回避する努力が要求されています。

【即戦力を期待したのに・・・】

実務上よくあるケースとして、特殊な技能を備える即戦力の人材を高待遇で中途採用する場合があります。このような場合、解雇の有効性を判断するにあたり、②指導・教育・研修や④配転・降格を要求しない可能性が高いです。
特殊な技能を前提とした労働契約の場合、当初の労働契約自体が②④を想定していないからです。
もっとも、応募条件や採用時の労働契約書において、会社が期待する能力や職務上の地位を明示し、それに見合う高待遇を与えておく必要があります。

【能力不足社員の解雇に不安な方は専門家への相談をお勧めします】

以上の点を踏まえず、安易に能力不足社員の解雇に踏み切ると、後日解雇の有効性を争われる可能性があるだけでなく、バックペイの支払義務が生じるおそれもあります。
バックペイとは、社員を解雇した後に裁判等で解雇が無効と判断された場合に、会社が支払いを命じられる金銭のことです。会社は、解雇が無効と判断されると、解雇の時点に遡って、解雇期間中に本来支払うべきであった賃金を支払わなければなりません。
後日解雇の有効性を争われることのないよう、会社としては、日常の労務管理において適時に記録や証拠を残しておく必要があるほか、社員の解雇に踏み切るか否かを適切に判断する必要があります。
弁護士法人ブレイスは、解雇トラブル対応の実績と経験を有しておりますので、その強みを活かした安心サポートを提供できます。

ご不安な方は、遠慮なく弊所までご相談ください。