ブレイスコラム
私生活で飲酒運転をした従業員を懲戒処分することができるか?
- 私生活上の非行を理由とした懲戒解雇が有効となる要素
- 運送会社の事例
- 私生活で飲酒運転をした従業員の懲戒処分に不安な方は専門家への相談をお勧めします
忘年会のシーズンですね。コロナ禍で一時衰退した恒例行事は、コロナが明けたこの年末、コロナ前までほぼ復活しているそうです。20代などの若者の方が参加意識高い傾向にあるとの調査結果も出ておりますが、皆さまの会社ではいかがでしょうか?
今回は、飲酒に伴うトラブルの一つである「飲酒運転をした従業員を懲戒処分できるか?」について解説します。特に誤解の多い「プライベートでの飲酒運転と懲戒処分」にスポットを当てていきます。
私生活上の非行を理由に懲戒処分していいの?
このようなプライベートの飲酒運転は「私生活上の非行」と言われています。
「私生活上の非行」とは、従業員が会社を離れて私生活において行った犯罪などの非行行為を指します。たとえば、飲酒運転のほか、過失による交通事故、交通法規違反、電車内での痴漢、窃盗や傷害などの犯罪行為なども含まれます。
「プライベートでも犯罪行為を行えば、当然に懲戒処分できるでしょう!」という誤解が本当に多いのですが、労働法ではそのように考えません。
【私生活上の非行を理由とした懲戒解雇が有効となる要素】
会社がいくら給料を支払っているからといって、従業員の全時間・全行動を支配できるわけではありません。会社の指揮命令権が及ぶのは、あくまで、給料支払いの対象である「労働時間」に限られます。「労働時間」以外の私生活上の行為全般にまでが職場の規律や秩序を強要することはできません。
しかし、その行為が企業の円滑な運営に支障を来たす場合や会社の社会的評価に重大な悪影響を及ぼす場合は、懲戒処分の対象となります。この論点を判断した有名な裁判例を紹介します。
日本鋼管事件(最判昭49.3.15)は、従業員の不名誉な行為が会社の対面を著しく汚したというためには、当該行為により会社の社会的評価に及ぼす影響が相当重大であると客観的に評価される場合である必要があると判示しています。
そして、「会社の社会的評価に及ぼす影響がどの程度であるか」は、以下の各要素から総合的に判断すべきと判示しています。
① 当該行為の性質、情状
② 会社の事業の種類・態様・規模
③ 会社の経済界に占める地位
④ 経営方針
⑤ その従業員の会社における地位・職種
⑥ その他の事情
上記各要素に関して、具体的な事例に即して見てまいります。
【運送会社の事例】
ヤマト運輸(懲戒解雇)事件(東京地判平19.8.27)は、セールスドライバーとして勤務していた従業員が私生活で酒気帯び運転したことを理由に懲戒解雇をした事案ですが、当該懲戒解雇処分を有効と判断しました。判断の理由は、主に以下の3点です。
①運送会社は、交通事故の防止に努力し、事故に繋がりやすい飲酒・酒気帯び運転等の違反行為に対しては厳正に対処すべきことが求められる立場にある。
②そのため、このような違反行為があれば、社会から厳しい批判を受け、これが直ちに会社の社会的評価の低下に結びつき、企業の円滑な運営に支障をきたすおそれがある。
③このような会社の立場からすれば、ドライバーの飲酒・酒気帯び運転に対して懲戒解雇という最も重い処分をもって臨むことも、社会で率先して交通事故の防止に努力するという企業姿勢を示すために必要なものとして肯定できる。
【私生活で飲酒運転をした従業員の懲戒処分に不安な方は専門家への相談をお勧めします】
ヤマト運輸(懲戒解雇)事件では、「全国的に有名な運送会社」であることが懲戒解雇を有効とする大きな理由となりましたが、そうでない限り、懲戒処分は簡単に有効にはなりません。以下の裁判例が懲戒処分を無効としています。
熊本県教委事件(福岡高判平18・11・9)
中学校教諭が、私生活において2度にわたる酒気帯び運転による逮捕等で懲戒免職された事案。裁判所は、非違行為が複数あって加重処分として免職を選択するには行為の行状やそれに至る経緯、教諭の高い評価等を考慮すると厳しすぎるとして、懲戒免職処分は違法であって取消しを免れないと判断。
姫路市(消防職員・酒気帯び自損事故)事件(神戸地判平25・1・29)
非番日に原付を酒気帯び運転し自損事故を起こした消防職員が、懲戒免職された事案。裁判所は、他の自治体の類似事例の多くは人身と物損事故で量定に差を付け、原則免職となるのは人身事故であることなどから、処分は裁量権濫用とした。約30年懲戒歴がないことなども考慮している。
みよし広域連合事件(徳島地判令3・9・15)
友人と飲酒後、友人が運転する車に同乗した職員を懲戒免職としたうえ、消防長を監督不行届で戒告処分したため、消防長が戒告処分の無効を求めて提訴した事案。裁判所は、消防長は飲酒運転の注意喚起を行っており、管理監督義務の懈怠を否定。私生活上の非行に及ぶ蓋然性が高いといった事情は認識できないとした。部下への指導監督は直属の長である消防署の署長らに委ねざるを得ないとしている。
飲酒運転の場合の懲戒処分の程度は、会社の社会的評価に及ぼす影響などの状況によりけん責処分から懲戒解雇処分まで幅広く考えられます。
ヤマト運輸(懲戒解雇)事件の事例は比較的分かりやすい例ですが、他業種の会社であれば懲戒処分の選択に迷う場面も多いかと思われます。
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