ブレイスコラム

【ワンストップサービスの重要性】その解雇、大丈夫ですか??顧問弁護士と顧問社労士にご相談ください!!

ブレイスコラム

解雇のご相談増えています。

photo

前例のないコロナ禍も落ち着きを見せて、少しずつではありますが日常を取り戻してきました。
社会常識も一変し、テレワークやWEB打ち合わせなど、会社の在り方も大きな変化が求められる時代となりました。
会社によっては、新たな市場に対応するため、事業規模を縮小し、人件費を削減することを検討されているところも多くあろうかと思います。
現に、世界に目を向けてもFacebookを運営するMeta社や、Twitter社、Google社も、経営上の理由から整理解雇や一時解雇であるレイオフなどを発表しており、日本でも大きく報じられていました。
そのため、自社でも人員整理を、と考えられる方も少なくないと思いますが、日本の労働法等関係法令では、人員整理を理由とした解雇はそう簡単に認められるものではありません。
計画的な解雇をしなければ整理解雇自体が無効となり、解雇した時点に遡って賃金を支払うバックペイ等の義務を負うことにもなりかねず、整理解雇前より状況が悪化することも珍しくありません。
弁護士法人ブレイスでは、整理解雇につき社労士部門との社内勉強会を開催し、整理解雇をするにあたって必要な要素を再度検討しました。
参考判例では、雇用調整助成金を活用していなかった点を重視して、整理解雇が無効と判断されました。
この記事では、勉強会にて取り上げた判例をベースとして、コロナ禍で業績が悪化したことを理由に従業員を解雇できるか、また有効な解雇をするにはどうすればいいか、仮に解雇が争われた場合のリスクなどについて解説いたします。

センバ流通(仮処分事件):コロナ禍での有期契約労働者への整理解雇とその間の賃金について 
仙台池決2020・8・21労判1236号63頁

photo

事案の概要

従業員Xらは1~5年の有期契約でタクシー乗務員としてY社に勤務していたところ、
2020年3月以降、新型コロナの影響緊急事態宣言によってY社の売上高が大幅に減少した(2020年4月で約1415万円の支出超過)。
Y社は代表Aから借入をしたり、雇用調整助成金の説明会に出席したり、従業員のうち4人程度を除いて休業させたり、残業、夜勤を禁止したりなどしていた。これに対し、Xらが加入する労働組合はY社と団体交渉をしていたが、2020年4月30日、Xら組合員を含む従業員を整理解雇した。
これに対し、Xら従業員は解雇を無効として、従業員としての地位が係属しているとする地位保全及びその間の賃金の仮払いを求めて仮処分を提起した。

会社側Yの主張

①緊急事態宣言による外出自粛でタクシー客が激減しタクシーが稼働すればするほど赤字が膨らむ状況にある。
②従業員を休業させて経費支出を抑えようとしても休業手当が発生し、また雇用調整助成金の支給時期も不明であり、コロナ禍の終息も不明な状態のため、人員削減の必要性がある。
③会社の現預金のうち大半は借入金で、取引業者への支払いも約3500万円超があり、資金的な余裕もない。
④雇用調整助成金の支給時期が不明の中、その間の休業手当の支払いを継続するだけの財政的基盤がない

裁判所の判断_解雇の有効性について

①Y社の人員削減の必要性があり、それが相応に緊急かつ高度であったものは疎明があるが、直ちに整理解雇を行わなければ倒産が必至であるほどの緊急かつ高度であった疎明がない
②Y社が一部従業員の休業等の解雇回避措置をとった疎明があるが、雇用調整助成金や臨時休車措置等を利用した解雇回避措置が可能であったにも関わらず、これを利用していない点で解雇回避措置の相当性は低い
③有期雇用従業員に対する解雇であり、人員選択手続きの相当性も低い 
④特に雇用調整助成金の利用が可能であるのにこれを利用していないということや有期雇用契約中の解雇であることからして、本件解雇は労働契約法17条1項のやむを得ない事由を欠いて無効であると判示した。

整理解雇の有効性判断について

労働契約法16条_同17条について

参考判例では、整理解雇が無効であると判断されました。
整理解雇がどういった場合に有効となるのか、無効となるのかを確認いたします。

労働契約法16条
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」
労働契約法17条1項
「使用者は、期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。」

要約すると、解雇においては1.客観的に合理的な理由 2.社会通念上の相当性が必要になります。
整理解雇(使用者の経営上の理由による解雇)においては、上記の要件について細分化して、下記の四要件(要素)が必要であるとされます。
 
① 人員整理の必要性があること
② 解雇回避努力義務が尽くされたこと
③ 非解雇者の人選基準とその運用が合理的であること
④ 手続きの相当性(労働組合や非解雇者と十分に協議したこと)があること

参考判例の解説

参考判例では上記要件について次のように判断しています。

① 人員整理の必要性について

約3000万円もの債務超過状態にあり、新型コロナ影響によるタクシー利用客の減少がいつまで続くのか不明確な状況にあり人員削減の必要性があり、またその必要性が緊急かつ高度のものである。
しかし、従業員を休業させ、休業手当を支出したとしても雇用調整金助成金の申請をすれば(休業手当を)補填されることはほぼ確実であり、販売管理費についても大幅に改善の余地があること、金融機関からの融資を受ける余地もあったことから、直ちに整理解雇を行わなければ倒産が必至であるほどに緊急かつ高度の必要性がない。

② 解雇回避努力義務について

解雇に先立つ解雇回避措置として、一部の従業員を休業させ、稼働する乗務員に残業や夜勤を禁止にする、取引先に値引き交渉をするなどをしたことは疎明されている。
しかし、雇用調整助成金を利用した雇用の確保などをしておらず、また雇用調整助成金を受給するまでの間、保有する現預金や融資を利用した資金繰りが可能であるため、解雇回避努力義務が尽くされているとは言えない。

③ 人員選択の合理性について

会社は夜勤のみしか乗車できないもの、営業に慣れていないもの、顧客からのクレームが多いものを選択したと主張するが、裏付ける資料もなく人員選択の合理性は低い。

④ 手続の相当性について

労働組合との団体交渉において、やむを得ない場合には人員調整に踏み切る旨の説明をした疎明はあるが、選択肢の一つとして整理解雇を提示したに過ぎず、これをもって解雇に先立つ十分な協議がなされたとはいえない。

⑤ 結論

以上の事由に加えて、本件解雇が有期労働契約の契約期間中の整理解雇であることを総合的に考慮すると、本件解雇は労働契約法17条1項のやむを得ない事由を欠いて無効である。

ポイント

photo

参考判例は、コロナの影響を大きく受けたタクシー業界において、人員削減の必要性があることが認められたうえでもなお整理解雇が無効と判断された事案です。
整理解雇は解説でも述べていますとおり、① 人員整理の必要性があること、② 解雇回避努力義務が尽くされたこと、③ 非解雇者の人選基準とその運用が合理的であること
④ 手続きの相当性(労働組合や非解雇者と十分に協議したこと)があることの四要件(四要素)が必要な手続であって、有効と認められるにはハードルの高いものです。
また、参考判例では、会社側が雇用調整助成金を活用していなかったことが重視されています。
そのため、経営状況が苦しい場面においては様々な角度から立て直しが必要となりますが、特に人員を削減する場合は、日頃から事業内容をよく知る弁護士や社労士にご相談いただき、本当に人員整理の必要があるのかどうか、他の手段がないかどうかを検討することが最も重要になります。
弁護士法人ブレイスでは、弁護士部門と社労士部門が積極的に連携したワンストップサービスを展開しており、今回の参考判例勉強によって、今後よりいっそう連携を強めていく必要性を実感しています。
本稿をお読みの皆様におかれましても、整理解雇のご相談はもちろん、助成金の件でもお困りごとやお尋ねごとがあればご遠慮なくご相談ください。
また、今回は整理解雇についてご説明いたしましたが、次回は、実際に解雇になった場合に会社側がどういったデメリットがあるかについて解説をしたいと思います。